柳橋さんは中学教師。放送部の顧問である。

「放送部ってのは、部活より委員会に近いんじゃないかと思うんだよね」

 常々感じていること。この活動、好きなことや楽しいこと、というよりは仕事や義務に近いのだ。
 それ故なのか、入部希望者は少ない。しかし潰すわけにもいかない部であるため、毎年躍起になって希望者を集めている。

「だけど、どういうわけか、人気の部活動だと思われてるんだ」

「人気の?」

 放送室にはいつも人がいっぱいで、和気あいあいとやっている。
 そんな話が生徒のあいだでよく飛び交っている。そのわりに、誰が放送部に所属しているのかはあまり知られていない。

「各学年一人しかいないしね。いやいややらされてるような子ばっかりで」

 柳橋さんはため息をついた。

「人がいっぱいでって、なんで所属してない人たちにわかるんでしょう?」

「窓から見えるらしいんだ」

 放送室は三階。
 入口は他の教室とは一味違う鉄の扉で閉まっているので、中のようすは窓からしかわからない。

「三人しかいないのに、そんなにいっぱいに見えるのかしら? 誰かが忍び込んで遊んでるとか……」

「んー……忍び込んでたとしてもね」

 放送部以外は知らないことがある。
 放送室の窓の前には棚や機材が置いてあり、後ろに潜り込むことができない。
 完全に配置の失敗である。

「窓と機材のあいだの狭い空間に、何人も人がいるわけないんだよね」

 柳橋さんは他人事のように語る。
 なるべく三階を見上げずに帰っているとのことであった。