「小学校一、二年だったのかな?」
春山さんの学校は、各クラスで金魚を飼っていた。
「一クラス、一クラスずつ。ひどいよね、子供って」
誰がやったのかわからない。ただ、洗剤がぶちまけられていた。
金魚の水槽に。
生臭さと石鹸の匂い、それらが混じった異様な臭気。毎朝、どこかのクラスから悲鳴が上がった。
そんな折。
「プールに浮いてたんだよ」
春山さんのクラスの担任。明るく快活な男性教諭だった。
その教諭が、漂白剤の匂いがするプールにぷかぷか浮かんでいたという。
季節は夏。プールに水が張ってあっても不思議はない。
ただ、ぶちまけられた漂白剤の理由はわからない。
教諭は、仰向けに服を着たまま浮かんでいた。
助け起こされ、呆けたように笑い出す。
「金魚を救おうとした、ってさ」
オチはないよ。そう行って、春山さんは上着を羽織った。
教諭がそれから精神病院に入院した、とか、自殺した、とか。そういうこともない。次の日からはいつもの教諭に戻っていた。
ただ、事件以降放課後に帰るのが早くなったとか。
それ以降、金魚が惨殺されることはなくなった。
うつらうつらしながら、揺られていた。今年は珍しくGWに帰省していたのだ。
ふと、目を窓の外へ。
親子連れだろうか、二人立っているのが見えた。すぐに通りすぎてしまったが。
だが、いま自分が乗っているのは飛行機である。
霊が見えるという詩春さん。生まれてこれなかった水子もわかる。
「お母さんにくっついてるから、あとはその表情、な?」
同意を求められても困る。鐘子は苦笑いした。
そんな詩春さんの友人が、最近結婚した。大恋愛の末である。
そんな幸せそうな友人に、詩春さんは水子をみた。
しっかりと友人に抱きついている。
「もしかして、結婚前におろした?」
ごくストレートに、詩春さんは尋ねた。
気心が知れた仲だからこそ。
「……どうかな?」
友人は一瞬だけ顔をひきつらせたが、すぐに元の笑顔に戻った。
「いろいろあったんでしょう。怖いですね」
鐘子が言うと、詩春さんは首をふる。
「本当に怖いのはさ、あいつの旦那、無精子症だったんだよ」
誰の子、おろしたんだろうね。そう言って詩春さんは笑った。