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新しい生活様式

多くの人がそうであるのと同じように、鐘子にとっての2020年も史上最低のものだった。
接待を伴う飲食店、というか風俗である以上鐘子の店が行政からも世間の目からも敵にされることは、わかりきっていた。

姉の鈴子は、近々式を挙げる予定だったが、延期になっている。このご時世だ。やむを得ない。
しかし30を過ぎてようやく籍を入れた彼女が何を思うのか想像もしたくなかった。それを想像することが怖かった。

果たして。
この騒ぎは、本当にウイルスを原因としているのか?
鐘子は不安になる。

世間の目は異常だ。
かの西村康稔が掲げる「新しい生活様式」。あれは、人間の生きる世界の話だろうか?

多くの人が苦しんでいる。それは、鐘子にも理解できた。
一方で、ほとんど無症状の人間が隔離され、感染するだけで犯罪者のように扱われ、基礎疾患のない若者にとっては風邪以下ではないか。

不安でやりきれなくなる。
この店だっていつまでもつかわからない。
それは確かに、世間に大きな顔をできる仕事ではないのかもしれない。それでも多くの人に必要とされ、尽くしてきた。

それが「接待」を原因に。
鐘子は初めて。この世界を呪った。
それはあらゆる怪異に匹敵する。呪いはひとりのものではない。そう思えた。
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