「『あ、変なのがきた』そんなふうに感じました」
滝上さんの窓口に現れた男性。
別に至って普通のお客、ごく問題のない手続きを済ませてお帰りになった。
「クレーマーだったわけでもないし、なにが嫌だったのかと言われてもわからないんですが」
ともかく、やな感じ。
そうとしか言いようがない。
悪いことに、滝上さんのその感じは正しかった。
なんの問題もなかったはずの手続きが、突然上司の目に留まる。
今まで何も言わなかったのに、突然それまでの何十もの手続きがおかしかったかのようにケチをつけられ、ごく簡単だった処理がとてつもなく面倒なものに変わってしまった。
「あのお客様が悪いわけでもなんでもないんですけどね」
それでも、あのとき感じたやな感じは異常に膨れ上がった書類と共に消えずに窓口に爪痕を残している。