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叫び

これ以上どうしろと言うんですか、うちの現場はアクリルだらけのマスクだらけ。それでも何回も何回も何回も毎日毎日送られてくる指示でもう頭がおかしくなりそう、特に管理職はノイローゼ気味です。会食しなくても、ましてや会話禁止でも移るときは移るんです、ゼロリスクは無理です。
だって人間じゃないですか。我々は無菌室で生きてるんじゃない。どんなに接触を避けても、どこかで誰かと触れあいます。感染予防は確かに大事です。だけど感染することもあるんです。感染した場合のケア、差別の防止、今はそれも大いに求められていませんか?
なんで若者は歩き回るだけで悪者に? 東京の人間は都外に出ただけで暴言をはかれます。冠婚葬祭が不要不急ですか? 社会が分断されています。ゼロコロナが理想ですが、絶対に無理なのはわかりきってるでしょう。感染対策を行いながら、ある程度感染が広がることも承知で、生かさないと。
上からの押さえ込み押さえ込みで、潰れそうになってる人たちがたくさんいます。何か悪いことをしたわけでもないのに。

新しい生活様式

多くの人がそうであるのと同じように、鐘子にとっての2020年も史上最低のものだった。
接待を伴う飲食店、というか風俗である以上鐘子の店が行政からも世間の目からも敵にされることは、わかりきっていた。

姉の鈴子は、近々式を挙げる予定だったが、延期になっている。このご時世だ。やむを得ない。
しかし30を過ぎてようやく籍を入れた彼女が何を思うのか想像もしたくなかった。それを想像することが怖かった。

果たして。
この騒ぎは、本当にウイルスを原因としているのか?
鐘子は不安になる。

世間の目は異常だ。
かの西村康稔が掲げる「新しい生活様式」。あれは、人間の生きる世界の話だろうか?

多くの人が苦しんでいる。それは、鐘子にも理解できた。
一方で、ほとんど無症状の人間が隔離され、感染するだけで犯罪者のように扱われ、基礎疾患のない若者にとっては風邪以下ではないか。

不安でやりきれなくなる。
この店だっていつまでもつかわからない。
それは確かに、世間に大きな顔をできる仕事ではないのかもしれない。それでも多くの人に必要とされ、尽くしてきた。

それが「接待」を原因に。
鐘子は初めて。この世界を呪った。
それはあらゆる怪異に匹敵する。呪いはひとりのものではない。そう思えた。

余命

記憶している限りでは、相当古いもの。
ふみ姉は、私に「もう長くない」と言った。
確かにふみ姉の髪の毛はいつの間にか短くなっていた。むしろツルツルだった。
「だけど、怖くはない」
そんな話をしたのが、最後だったような気がする。

ふみ姉が誰だったのか、本当に姉だったのか。
もはやよくわからなくなっている。

ただ、鈴子姉と私とふみ姉が三人でいた時間はとても短かった。

長毛種

橋をわたりきったところに、墓地があった。どういうわけか、西洋風だ。
墓地の一角に、一匹の長毛な猫がいた。野良にしてはやけに毛並みが良い。
目線を変えると、猫は複数いる。みな毛並みの良い長毛種。
墓地には何故か北海道ローカルのお菓子が供えてある。
一様に猫たちに見つめられ、俄に気味が悪くなる。
急いで自宅アパートに戻るが、何故か違う棟の階段を上りきってしまった。降りようとすると、猫たちが上がってくるのが見えた。

槇原敬之の再犯。
少なからず、鐘子はショックを受けていた。もう30歳も目前に迫る鐘子、槇原敬之が世代というには少し若いが、それでも親の影響もあって小さい頃から聴き続けていた歌たちだ。

。槇原敬之の逮捕以来、どうにも体調が優れない。
電車の窓。ぼうっと窓の外を眺める。

と。

電光看板に松嶋菜々子。いやに若い。
それはそうだ。
『君の名前を呼んだあとに』のPVだ。槇原敬之の名曲。

そんなはずはない。いま彼の歌を流すはずがない。
困惑しながら電車を降りる。

発車メロディが『もう恋なんてしない』
駅構内では『LUNCH TIME WARS』
すれ違った人のiPodから『どんなときも。』

駅を出て目にしたのは、たくさんの花がビル街に広がる、それはまるで『世界に一つだけの花』のジャケット写真。
一瞬で消える。

白昼夢。だったのか。

ただ、槇原敬之は既に死んだようなもの。
これは幽霊だ。
鐘子の気持ちは理不尽に思い込んで、いっそうざわついた。