尚樹と動物園に出掛けた鐘子。
解放的な空間に、キリンやシマウマが放し飼いにしてあるコーナーがある。
しかし、その少し外れに、なぜか数頭のシマウマが入った別な檻があるのだ。
なんで、あれらの個体だけ?
疑問に思いながら、話していると、突然声をかけられた。
「事故があったんです」
振り向くと、飼育員。
「あのシマウマは、走り回ってキリンの足を折ったんですよ」
飼育員は、苦々しい顔をした。
「あぁ、それで。他の個体も事故を?」
尚樹が問いかける。
「……えぇ、まぁ、そういうわけでもないんですが」
歯切れが悪い。
「動物ってのも生き物だから、いろんなもんがつくんですよね。あれは悪いもんだってのが、わかったから」
ふと、気が付くと檻の中のシマウマが、じっと鐘子たちを見ていた。
見ていたのは一頭だけ。一頭だけ、なのに、何十もの視線を感じた。
「やりきれない気持ちになるけど、大切にされてきた動物ばっかりじゃないんですよ。だから、私は、せめて」
飼育員は、そう言って檻に入っていく。
シマウマを見つめる目が、びっくりするくらい優しいものに感じた。