(夏目/夏目)妖怪見えない気付いてないでも纏われやすい夏目同級生
私は小さい頃から慢性の肩凝り持ちだ。あ、腰痛と冷え症もあった。とにかく血液の循環が悪いらしい。
その症状が顕著に現れるのが肩と首と腰なんだから鍼灸や整体にお世話なることは昔から多い。肩凝りからの頭痛や眩暈がキツいし、仕方なかった。とはいえツボ押し機とか使うことも沢山あって、周りからはよくおばさんくさいと言われたものだ。
「ま、それは今もなんだけど」
「へ、へえ……」
「もう体質だから仕方ないよね」
昼休み、偶然一緒することになった同級生の夏目くんに向かいながら溜め息をつく。夏目くんはその話を聞いて何故か空笑いして挙動不審になっていたが、同級生が慢性の肩凝り持ちとか笑うしかないからだろう。
仕方ない、そう仕方ないのだ。自身の体質は今更だ。もう何年か前に諦めている。おばさんは多少傷つくけど。開き直りながら売店で買ったサンドイッチをパクリ。うん、美味しい。
ふと正面を向くと夏目くんがこちらをじっと見ている。けど目が合わないからぼーっとしているのだろうか。凄く美味しそうなお弁当があるのに食欲がないのかな。サンドイッチを口に突っ込んで不思議そうに見ていると、彼はハッとして慌てて笑った。なんでもない、といいながら。
「その……みよじ、昔からっていつからなんだ?」
「ふむ?」
「(ハムスター…)いや、その、肩凝りとか?」
「む、むぐ、んぐ。えーっと幼稚園からとかそんなぐらい?」
「(そんなに長いのか…)」
夏目くんは真剣な顔をするものだから答えるが、ふと昔のことを思い出すとこの肩凝りでいろいろ苦労したこともあったものだ。「そういえば小さい頃は治らない痛みに泣いたこともあったなー」と世間話ついでに言ってみる。すると黙り込んでいた夏目くんは驚き「ええ!?」と声を上げた。え、何。驚かれたことにこちらが驚く。てっきり同情されるかと思ったのに。ぐいと詰め寄られて肩まで掴まれる。夏目くんの行動に更に驚き固まってしまった。
「痛かったってそんなに!?」
「え、ええ、うん」
「肩凝りとか腰痛とかだけで済んでるのか!?」
「えええええ」
済んでいるのかと言われてもこれ血行不良だし、ああもしかして壊死とか梗塞とかそんなんだろうかと思ったがそんな大層なことになったことはないし、肩凝りと腰痛だし、と口をもにょもにょさせてしまう。夏目くんはお医者さん志望なのかしら。
すると「他に怪我しやすいとか!」だなんて言われる。そういえば怪我はしやすい方か。肩凝り腰痛が酷いからあまり気にしたことはなかったけど昔からよく変なところで転んで怪我とか捻挫をしたものだと、頷いた。
「ほら、私鈍臭いし」
「いや、そんな…」
「でも慣れてるから怪我の手当てできるんだ、私。ツボとかもいっぱい勉強したし」
「……」
「おかげでほら、血行を良くするツボとか知ってるし、ダイエットのツボとか知ってるんだよ」
そう掌の間接から指2本分下を押しながら笑う。夏目くんは俯いていて顔が見えない。そういえば肩掴まれたままだから近いなあ。夏目くんは一体どうしてしまったんだろう。お医者さん志望だからか。やっぱりそうなのかな。
凄いなあ夏目くん、と思うがお弁当も食べず止まってしまった同級生が心配になってきて、笑い続けるのもいい加減苦しい。本当に大丈夫なのかな。顔を覗こうけれど肩を掴んだ腕は外れないし、苦し紛れに首を傾けるしかない。
と、ふと夏目くんの切なげな表情が見え、え、とこちらも固まってしまう。夏目くんは美人だ。自覚はないけどとても美形で、かっこいいというより美形だと思う。そんな人のそんな表情、見てはいけないものを見てしまった気になるのは何故だろう。でもそれより苦しそう、っていうのが何より気になって、
「な、夏目くん?」
思わず声を出してしまうと、何故か声が震えてしまいしまったと思った。
だが夏目くんの耳には届いたらしい。よく見えなかったがハッと目が見開いた。次いでバッと顔を上げられ、その拍子に目がばっちり合う。改めて近い、特に顔が近くなった。
なんか少女漫画のドッキリみたいだと思いながら真っ直ぐに見た夏目くんが固まったのがわかる。あ、夏目くんって初なんだ。睫毛は長いし(私より長いんじゃないか…)(悔しい)色素が薄いのがよくわかる。やっぱり美人だなあと呑気に観察していると彼の耳元がじわじわ赤くなっていくのがわかった。
「…大丈夫?」
「う、うわああああああああ!?」
「わ、!」
悲鳴を上げられ漸く手を離され、っていうか押されて距離が遠ざかる。後ろに転びそうなのを堪えて、夏目くんはどうしたんだろうと目の前を見れば先程までじっくり観察していた同級生は地面に突っ伏している。って突っ伏し…!?
声をかけようかと思ったが耳が真っ赤だからよっぽど恥ずかしかったんだろう。なんか唸ってるし自己嫌悪にでも陥ってるのだろうか。こっちも確かに恥ずかしかったが……夏目くんって可愛いなあと思ってしまった。彼の膝元にあったお弁当はぐちゃぐちゃながら奇跡的に中身を零さずにすんだみたいだ。彼の横にちょんと位置している。お箸は落ちてたけど。
しかしこの状態はどうすればいいんだろう。男の友人は多いけどこんなことになったことはない。どう声をかけるべきなのだろうと途方にくれる。
「(っていうか立場的に普通逆なんじゃあ…)」
私も照れて慌てるべきだったかなと今更ながら思う。とりあえず昼休み中には立ち直ってくれるといいけどと、未だ動かない(ちょっと拳とか肩とかは震えていた)夏目くんを見て願うしかなかった。
その日の午後、予想通り夏目くんとは一切目は合わなかったのだが(思いっきり目を逸らされた)、帰宅してから気が付いた。
いつもあんなに重かった肩が普段より軽くなっていた気がした。
お医者さん志望の夏目くん
(あ)
(あ)
(おはよう夏目くん。昨日はあのね、)
(おおおおはようみよじ!!ああああのじゃあ俺用事あるからごめん本当にごめん!!)
(え、いやあの…………逃げられた)(もしかして夏目くんがツボ押してくれたのか聞きたかったのに)
(駄目だ顔が見れない恥ずかしい…!)(憑いてたやつらを追っ払う為とはいえなんであんなに接近してしまったんだ俺は…!)
見えない聞こえないだが憑かれやすい(重さとか)感じやすい同級生とこれから同級生に憑いた妖怪を追い払うのに孤軍奮闘する羽目になる夏目。
夏目くんは美形でよろしいけど女慣れは絶対してないし絶対純情で初だろうと思います。周囲に余り女っ気はないし塔子さんは女性らしいけどそういう路線で論外、多軌ちゃんは割と勇ましいし女というより友人枠に入ってそうだから尚更。いざ接近すると女より乙女っぽいんじゃないかな。そういう妄想。
あと自身の経験上、気付かないとはいえ妖怪関係で辛い思いをしてきた夢主には割と同情気味。夢主は慣れてるし仕方ないと思ってます。肩凝りだもん、普通にあるもん。しゃあない。
続ける予定はからっきしないけど割と楽しかったから次はこれの夏目視点か、もしくはニャンコ先生でも投入してみたいものだと画策してみる。