なんだって一人より大勢でやった方が安心だし安全だ。
赤信号もしかり、怪談話とか心霊現象の番組とか、ボイアハザードみてーなゲームだってみんな一緒だったら怖くない訳で、むしろそーいうのもみんなで見たら「何これ、ヤラセじゃねーか?」って笑いながら馬鹿に出来る。
でも、いざ寝る時になったらちっちゃな家鳴りに反応しちゃったりカーテンの微妙な隙間が気になったりしねー?いやあるはずだ!
幽霊の気配がした気がして眠れなくなるのはぜってー俺だけじゃない!誰もいないって言い聞かせながら無理矢理寝ようとするのは俺だけじゃない!
い、言っとくけどなァ、こ、怖い訳じゃねーよ?これ、あの、人間の摂理ってやつだ。次のテストに出るからお前らちゃんとメモっとけー。以上!
目の前のテレビに映っている二人組の司会が、今までのおどろおどろしい雰囲気とは違う呑気な口調で番組を締めくくっている。
『さぁ、いかがでしたか?“全身が凍る、世界の恐怖映像出しまくりスペシャル”!
2時間お送りしてきた訳ですけどねー、もう僕さっきから鳥肌立ちっぱなしですよ』
『本番中にちょっとしたハプニングもありましたけど、まあ無事に終わって良かったです。
それではまた会う日まで!さようなら〜』
パチパチパチ、と拍手に包まれENDの文字が出る。と同時に、テレビの前を陣取っていた神楽がブラウン管に向かって指を差した。
「これこれ!この男が“女性エイト”でパパラッキョに美人とのツーショットを撮られた男アルよ!」
神楽のその一言に、台所で洗い物をしていた志村新八が手を止め、テレビに目をやる。
パパラッキョじゃなくてパパラッチね、と自分の役目を果たしてから言葉を続けた。
「ああ、この人ね。確か相手の人は有名モデルさんだっけ?」
「フン、そんなのどうせ一夜限りの恋アル。朝が来たら何もかもがなかったことになってるネ。男はみんな汚いヨ」
「か、神楽ちゃあぁぁん!?銀さんアンタ何教えてんのォォ!!」
神楽の一言に動揺した新八が、ソファーに寝転がっている坂田銀時に問いかける。
銀時は頭をかきながら「んあー?」と間延びした声で返事をして、
「銀さんは悪くないよコレ、俺の育て方に不備はないからねコレ」
そう、自身の容疑をあっさり否定すると手をひらひらさせながら「新八ぃー、立ってるついでに冷蔵庫からいちご牛乳取ってー」と新八に言う。
新八は呆れながらも冷蔵庫の扉を開け、ピンク色のパッケージのそれを取り出し、銀時に手渡した。
すると、それまで正常に映っていたテレビの画像に、突然ノイズが入りだした。
テレビと向き合っていた神楽がその異変にいち早く気付く。
「ぉろ?何かテレビの調子がおかしいネ…」
立ち上がり、本体を軽く叩くが雑音の音が大きくなるだけで一向に良くならない。
「銀ちゃーん、新八ぃ、テレビが何か変アルよー」
「アレ?本当だ、どうしたんだろ…」
神楽の一言に、新八もテレビに近寄って不具合を確認する。
チャンネルを変えても、電源を消しても、直る気配が全くない。
「ちょっと銀さーん、黙って見てないで手伝って下さいよ」
銀時の方に視線を向けるが、当の本人はそっぽを向いていて知らん顔をしている。
銀さん と新八が口を開こうとした時、ノイズ音より大きな電話のベルが閉鎖された部屋に鳴り響いた。
「…電話か、誰だろ?」
新八はすぐにデスクの上に置かれた電話の元へ向かい、受話器を手に取ると慣れた口調で応対する。
それを訝しげに見ていた神楽だが、彼の口から「ああ、姉上ですか」という言葉が漏れるとパッと笑顔になった。
新八は二言三言お妙と話すと、分かりました、と言って電話を切った。電話の内容は帰宅を促すもので、彼は銀時に帰ります と告げようとした、が。
「…って、銀さん?」
さっきまで寝転がっていたソファーに銀時の姿がない。
キョロキョロと辺りを見回すと、部屋の隅っこで小さくなって震えている見覚えのある後ろ姿。
新八は駆け寄り、「何やってんですか銀さん!」と軽く肩を叩いた。
その時である。
「っ
ひぎゃああぁぁ!!?」
妙に甲高い叫び声が部屋を包む。
一瞬の静寂の後、銀時がバッと振り向いた。そして震えた声で、
「な、なーんだ新八君じゃないか…あれ程背後に回る時は気配を消すなって言ったのにぃ」
と、引きつらせた笑顔を浮かべて言った。
そんな銀時を軽く無視して新八が「僕もう帰りますから。じゃ、おやすみなさい」と、帰路につこうとする。
が、踵を返した新八の腕を銀時は反射的に思い切り掴んでいた。
「あいたたた!ちょっと何するんですか銀さん!!」
あまりの力の強さに顔をしかめるが、銀時はまるで聞いていない。それどころが、
「頼む新八君!!帰らないでくれお願いだから!!!」
「…は?」
なんて言われたから、驚き。
神楽の、「…銀ちゃん、何言ってるアルか気持ち悪い」という一言で銀時は現実に戻ってきたらしく、しどろもどろに言葉を紡いだ。
「あ、いや、だからな、ほら!外は暴風大雨注意報が出てる訳だから、今外に出たら寒中水泳がお前のフトモモを」
「言ってることが全然分かりません!っつーか外めっちゃ静かですけど!?」
「おま、分かってねーな、これから雨とかあられとか、槍とかテリー佐藤とかが降ってくるんだっつーの!
だから今日はここに泊まれ!!」
そして銀時は呆然としている神楽と驚愕中の新八を交互に見て、
「お前ら!今日は川の字で仲良く寝るぞ!!
今こそ万事屋の絆を深める時だ!!」
と、やたら熱く宣言したのだった。
こうして万事屋3人、川の字で仲良く(?)寝ることになったのだが…。
「ちょ、銀ちゃん暑苦しいアル!もっとぱっつぁんの方に寄るヨロシ!」
「うわっちょっと銀さん!!あんまりべたべた寄ってこないで下さいよ!」
「だーもううるせーな!我慢だ我慢!!
布団が2枚しかねーんだからしょーがねーだろ!」
「もう我慢できないアル。私自分の部屋行くネ」
窮屈さに堪えきれず布団を出ようとする神楽だが、それを必死の形相で止める銀時。
お願い神楽ちゃん、俺の傍にいてェェ!!と、子どものように駄々をこねた。
「もぉーうるさいアル銀ちゃん!ピーターパン症候群気取ってんじゃねーヨ!」
「気取ってなんかねー!
お前らがさっきのテレビ番組見て眠れなさそうだったから、俺が添い寝してやるっつってんだろーが」
「誰もそんなこと言ってませんけど」
「言ったって!素直になれって!ホントは怖いんだろ?全く、まだまだガキだなぁお前らも」
そうぶつくさ言って銀時は両サイドにいる神楽と新八の手をギュッと握る。
神楽と新八の眉間にシワが寄ったのはほぼ同時だった。
「「銀さん(銀ちゃん)の手ぇ汗ばんでて気持ち悪い(アル)!!」」
え、俺?俺は全然大丈夫だけど
あ、窓の外に血まみれの女がいるネ!
ぎゃあああぁぁぁ!!!!!!
やっぱオメーが一番怖がってんだろォォ!!
【万事屋ほのぼの…のつもり。
無駄に長くなった上に駆け足でちんぷんかんぷんorz】