8/6 しの様よりリクエスト
「フレンとユーリの入れ替わりネタでオールキャラギャグ」です。途中からほんとギャグです。
「…どうなってんのかねえ、コレは」
「ね、ねえ、二人とも大丈夫?」
「…あなた達といると、退屈する暇もないわね」
仲間達に取り囲まれて、二人の青年は居心地が悪そうに身じろぎした。
方や黒髪長髪、衣服も黒一色、不遜不敵な切り込み隊長。
もう一方は金髪碧眼、煌めく白銀の甲冑も眩しい、歩く清廉潔白品行方正、次期騎士団長。
しかし二人の様子は、今まで仲間が認識していた姿とは真逆の方向となっていた。
つまり、ユーリは常に大きくはだけている衣服の前をきっちりと一番上まで留め、神妙な面持ちで俯きながらもぴんと背筋を伸ばしてこれまたきっちりと正座をし、膝の上に揃えた両手を固く握り締めている。
フレンはと言うと窮屈そうに首回りのアンダーウェアに指を突っ込んでぐいぐいと伸ばしながら怠そうに欠伸を噛み殺し、片膝を立ててもう一方の足首を抱え込んでいた。
そんな姿を眺めつつ、仲間達は世にも奇妙なこの光景に、『どうしたもんか』とそれぞれの思いを巡らせているのだった。
「…リタ、何か分かりませんか?」
不安そうに尋ねるエステルをちらりと見てリタが言う。
「エアルの乱れね」
やはり、といった顔をした仲間達だったが、当事者二人は納得いかないようだった。
「…おまえ、それ言や何でもオッケーだと思ってねえか」
「んな!?そそそんな事ないわよ!!?」
ぞんざいな口調で突っ込んだ『フレン』を『ユーリ』が窘める。
「やめないか。リタにだって分からない事ぐらいあるさ」
「うるせえな…その顔でそんな喋り方してんじゃねえよ」
「それはこちらの台詞だ!…生地が伸びる、引っ張らないでくれ!」
一見いつも通りの言い争いのように見えて、二人の口調は見た目とは正反対、完全に互いのものと入れ替わっていた。
「礼儀正しいユーリも魅力的なのじゃ〜!」
「ワイルドな騎士様というのも、なかなかね」
「…二人とも、ほんとマイペースだね…」
カロルの零した溜め息が、狭い部屋の中でやけに大きく感じられた。
「…とりあえず、状況を整理するわよ!」
少々動揺気味のリタの声に、皆が顔をそちらへ向けた。
「原因は不明だけど、ユーリとフレンの身体…っていうより精神が入れ替わってるのは確かなようね」
「見りゃわかんだろ」
「ユーリ!!」
フレンの姿の『ユーリ』が突っ込み、ユーリの姿の『フレン』が窘める。先程と全く同じ光景に早くも仲間は慣れつつあった。
「……で、アンタ達、何か不都合ある?」
「「………は?」」
二人揃って間抜けな返事と共にリタを見返すが、リタは至って真面目な様子だ。
「だから、体調悪いとか記憶がおかしいとか、そういうのあるわけ?」
「いや…別に(ユーリINフレン)」
「そう…だね、特には(フレンINユーリ)」
「だったらとりあえず問題ないでしょ」
「「大ありだ!!!」」
またしても見事なユニゾン。
しかしリタの意見に他の仲間は皆同意した。
「原因も分かりませんし、暫く様子を見るしかありませんね…」
「とにかく、いつまでもこうしてる訳にもいかないわ。次、何する予定だった?」
「あの…その事なんだけど」
おずおずと『ユーリ』が手を挙げる。
「何よ」
「一度、オルニオンに寄ってくれないか?暫く留守にしていたし、事情を説明したい」
隣の『フレン』が「うげ」、と言って渋い顔をした。
「おまえ…まさか猫目の姉さんに言う気かよ」
「仕方ないだろう。いつ戻れるか分からない以上、黙ったままではいられないよ」
「…でも、なあ…」
「それともユーリ、僕のふりをして騎士団の仕事をしてくれるのか?」
「無理」
「…という訳だから、頼むよ」
「わかったわ。それじゃバウルを呼んで来るわね」
不安げな様子で頭をがしがしと掻いた『フレン』に、『ユーリ』もそっと溜め息を零すのだった。
オルニオンに着いた一行は、『ユーリ』と『フレン』が用を済ます間は自由行動という事で思い思いに散って行き、『ユーリ』は『フレン』と共に騎士団の駐屯地へと向かった。
「…という事なんだ。理解してもらえたかな」
「………………」
「…は、はあ…」
駐屯地にあるフレンの部屋で、『ユーリ』から事情を説明されたソディアとウィチルは困惑しきりだった。
何せ目の前に座る男は紛れも無く「ユーリ・ローウェル」で、傍らに立つ男こそ「フレン・シーフォ」その人なのだ。確かに『ユーリ』の口調はフレンのものであるようだが、そう簡単には信じられない。
特にソディアは今だ強い疑念を抱いているようだった。
「…にわかには信じられません」
「ソディア…」
「あなたが本当にフレン隊長かどうか、確かめさせてもらいます」
「え、どうやって」
「簡単です、隊長にしか分からない事に答えられれば良いんです」
「はあ」
するとソディアはごほん、と一つ咳ばらいをするとおもむろに口を開いて言った。
「隊長の好みのタイプはどんな女性ですか」
「…………はい?」
そりゃあ確かに、フレンにしか答えられない事ではあるが。私情が入りまくりの質問に、『フレン(ユーリ)』とウィチルが眉を顰める。
「身長は?胸の大きさはどうですか?少し吊り目で泣きぼくろがあってアシンメトリーなヘアスタイルでちょっと気が強くて男相手に本気で嫉妬して刃物を取り出すような女性でもきっと受け入れてくれますよね?っていうかどう考えても幼馴染みとか親友の枠を越えてると思うんですがまさかそんな趣味がある筈ありませんよね、さあどうですか否定して下さいというか否定しなければ信じませんよ答えて下さい!!!」
『………………』
ソディア以外の全員が固まっている。
これは『質問』ではない。『詰問』だ。しかもかなりタチが悪い部類の。途中から色々と脱線したようだ。
場の空気が一気に変わった。
「どうしました、答えられないんですか」
「いやその…ゆ、ユーリ!?突っ立ってないで何か言ってくれ!!」
「…悪ぃフレン、これ以上関わりあいになりたくねえ」
「…わかってて聞いてますよね、あれ…」
「ちょっと二人とも!?」
部屋の片隅で視線を逸らす『フレン』とウィチルには構わず、尚もソディアが食い下がる。
「答えて下さい!!あなたにとって、ユーリ・ローウェルとはどういった存在なんですか!!」
「好みの女性じゃないのか!?いやもう分かってるよね!?僕が『フレン』だって分かってるだろ!?…ちょ、く、苦し…!!」
襟首を掴まれがくがくと揺さぶられる『ユーリ』の姿をさすがに見兼ねたのか、『フレン』が二人の間に割って入り、ソディアの手から『ユーリ』を解放した。
「ソディア…いい加減にしろ」
静かに言う姿は、まるで本物の『フレン』のようだ。一瞬、全員が動きを止めた。
「いいか……そんなに知りたければ教えてやる」
「な、何を…」
誰とはなしにごくり、と喉を鳴らす音がする。
「よく聞け、オレとフレンは…」
「あ、あなたと隊長は…?」
すい、とどこか哀しげに視線を落とすと、『フレン』……ユーリは一言、呟いた。
「『公式』だ」
「……………」
「……………」
「……………」
暫しの沈黙の後、ソディアも同じく目を伏せた。
「分かりました……。それでは仕方ありませんね…」
「え!?何言ってるんですかソディア!!今のさりげなく色々問題発言ですよ!?そもそも『中身』の確認だったんじゃないんですかっっっ!?って言うかせめて『公認』ぐらいにしといて下さいよ!!!」
「ありがとうウィチル、僕達の事、認めてくれるんだね」
「笑顔で何言ってんですか!!」
「常識人は大変だな」
「…あなた、今度は他のCPクラスタから刺されますよ」
「心配すんな、『オレ』を消したら殆ど成立しなくなるからそれはない」
「…………」
「それじゃユーリ、僕は少しここで仕事をしているから」
「…おう」
『ユーリ』を残し『フレン』は一人、部屋を後にした。
「……はぁ……」
「あ、ユー…『フレン』!って、どうしたんです?何だか疲れてません?」
「…ああ、エステル。気にすんな」
「そうなんです?」
「それよりどうした?フレンになんか用か」
「え、ええ…あ、でもこの場合は『フレン』のほうがいいのかも」
「オレ?」
「はい!とにかく、一緒に来て下さい!」
エステルに引っ張られて来た街の中央広場には、ちょっとした人だかりが出来ていた。その真ん中では一組の男女が言い争っている。
「…なんだありゃ」
「あのお二人はご夫婦らしいんですが、奥さんのほうがここの暮らしに不満を持っているとかで」
「まあ結界魔導器もねえし、色々と不安もあるんだろうけどな…」
「いえ、帝都で評判のパスタランチが食べられないとかエステがないとか虫刺されが酷いとか言ってましたけど」
「………」
「一応この街の責任者はフレンですし、仲裁してくれません?」
「責任者じゃねえと思うが…仕方ねえなあ」
「ちゃんと『フレン』して下さいね!」
嫌々ながらも仲裁には向かう辺り、『ほっとけない病』は相当進行しているようであった。
そして言い争う二人の間に入ると悲しげに俯いて女性のほうに声をかけた。
「お話は伺いました。申し訳ありません、私が至らないばかりに…」
そのままそっと女性の手を握ると、真っ赤になって硬直した女性に向かい、今度は溢れんばかりの笑顔で次のように述べた。
「確かに発展途上の街ですが帝都の下町に比べたら百万倍マシですよ?魔物がいるけど騎士連中はよっぽどあっちよりしっかりしてるし食うに困る事もありませんよねとりあえず。知ってます?僕がガ…子供の頃は一日三食なんて夢のまた夢、一つのパンを友人と分け合って二、三日過ごすなんて当たり前。人参と大根はカスッカスに干からびるまで葉っぱ育てて食べるんだよ信じられますか水に浸けてるのに干からびるとかどんだけだよって話ですよね。ちょっと腐ったぐらいじゃ捨てないんだよ白ご飯とかね、水で洗って干してからなけなしの小麦粉はたいてほんの少しの油で揚げて食うんだけどそれでもたまにハラ壊すんだ、まあ友人の殺人料理食わされるよりはマシだったんですけどねあははは。虫刺され?下町の下水溝なんか夏場はそりゃあもうエラいことになって」
『申し訳ございませんでした!!!』
淡々と語られた貧乏自慢(?)に聴衆は皆、滝のような涙を流していた。『フレン』に手を握られたままの女性は、何故か必死に『フレン』から目を逸らして震えている。
よく見れば、その口元は「ごめんなさい、ごめんなさい」とうわごとのように繰り返していた。
「全く、つまんねえ事で人騒がせな……ん?どうした、エステル」
「ごめんなさい…!のうのうと生きて来て本当にごめんなさい……!!」
「………」
溢れる涙もそのままに、エステルは走り去って行った。
「「疲れた……!!」」
互いによく知る親友とはいえ、やはり別人を演じるのは一苦労らしい。その晩、二人は着替えもそこそこに宿のベッドに倒れ込むと泥のように惰眠を貪ったのだった。
結局、翌朝には「入れ替わり」は治っており、胸を撫で下ろす二人とは対照的に仲間達は『なんだ、もう終わりか』とつまらなそうに、しかしそこはやはりほっとしたように笑い合っていた。
「…結局、何が原因だったんだろうね…」
「さあなあ。…おまえ、何でそんな疲れてんだよ。大して何もしてねえだろ」
「……仕事の間中……ソディアとウィチルの視線が痛くて、さすがに……」
その視線は暫くの間ユーリに突き刺さり続けてユーリ本人をも疲れさせ、フレンもまた何故か同情の眼差しであれこれ施される理由が分からずに頭を悩ませるのだった。
「…入れ替わりの意味、あんまりないんでないの?」
「わかってないわねおじさま。こういうのはビジュアルとのギャップに萌えるものなのよ」
「見えとらんがの」
ーーーーー
終わり