誘惑・前(リクエスト・ユリフレ)

雪耶さまよりリクエスト、お題のうち「ユリフレ」、「エロ」、「パロ」のミックスです。
現パロで後編から裏になります。









夜毎繰り返される、秘め事。

不規則に軋むベッドの上で絡まり合う、二つの熱い吐息。

甘く高い嬌声を抑えようともせず、快楽に身を任せて激しく乱れる姿は、更なる情欲を掻き立てることだろう。



…そろそろ、限界だ。









「………なんて顔してんだよ」

ユーリはフレンの顔を見るなり、呆れとも心配ともつかない様子で言った。

学生でごった返す昼過ぎの食堂で、幼なじみの姿を見つけたので傍まで来れば、フレンはなにやら虚ろな目をしてハンバーグをつついていた。

ユーリが自分のトレーを置いて向かいの席に腰かけると、フレンがのろのろと顔を上げる。


「…ああ、ユーリ」

「どうしたんだよ、具合でも悪いのか?」

「いや、そういう訳じゃ…」

「だったら寝不足か?すげえぞ、隈が」

「寝不足……そうだね…」

この時期、卒論やらなんやら、やることはそれなりにある。
大学に来ることはあまりないが、今日は就活の際に世話になった教授の手伝いのためにわざわざ出向いたのだった。

「そんなに大変なのか?卒論」

「何を人ごとみたいに…。君だってそうなんじゃないのか」

「オレはもう諦めてっからな。適当にやっとくさ」

「そんなのが通るわけないだろ、全く…。そういえば君はなんでここに?」

「学生課のやつに呼び出し食らってさ。全然就活してねえから」

あっけらかんと言ってカレーを口に運ぶ友人の姿に、フレンは深いため息を零した。

「君は気楽そうでいいよね……」

「うるせえな。おまえが神経質すぎんだよ。そんなんなるまで根詰めたって、ろくなもんにならねえぞ。寝るときゃしっかり寝ろよ」

「できれば僕もそうしたいんだけどね」

再びため息を吐いたフレンの顔を、ユーリが怪訝そうに覗き込む。

「なんだよ、マジでどうした?何かあったのか」

「あったというか、あるというか……」

「あん?」

今までで最も盛大なため息と共に、フレンは寝不足の理由を口にした。



「隣がうるさくて眠れないんだ」



「………はあ」


なんだそんな事か、ぐらいにしか思っていないのか、ユーリのリアクションは薄い。

「うるさいって……ああ、おまえの部屋、真ん中だったっけか。隣って、どっち側?」

「両方」

「…そりゃまた…」

フレンの住んでいるのは、大学から程近い学生向けアパートだった。
三部屋ずつ、二階建てのそのアパートの、二階の真ん中がフレンの住む部屋だ。
隣にはそれぞれ学生らしき男女が住んでいて、たまに顔を合わせることもあった。

「なんか最近、それぞれ恋人ができたみたいでさ…」

ぼそっと呟いたフレンの言葉で、ユーリはだいたいの事情を察した。

「あー、そういう事。そりゃしょうがねえなー」

「何がだよ!?ほぼ毎日なんだぞ、たまったもんじゃない!!」

「溜まってるのはおまえなんじゃねえの」

「ユーリ……!笑えないよ……!!」

ニヤニヤしながら下品なことを言うユーリを、フレンが睨みつける。

「冗談の通じねえやつだな、ったく。うるさいって、そんなすごいのか?」

ユーリの言う『すごい』の意味するところを考えないようにしつつ、言葉を選んで説明する。

「とにかく、時間が遅い。それで、朝方まで騒がしい。平日はまだ、どちらかの部屋だけのこともあるけど、週末は……」

「まあそうなるよな」

「なんでいっつもこっちのアパートのほうに来るんだか…」

「そりゃ、相手が実家暮らしとか、そんなんだろ。学生だったら毎回ラブホ行く金もねえしなぁ」

「…………」

「ん?何だよ」

「いや……。ずいぶん彼らに理解があるな、と思って」

同情してほしいわけではなかったが、迷惑を被っている相手に対してユーリが肯定的なところが、フレンは今ひとつ納得いかなかった。

「理解っていうか…普通そうなるだろ。オレも苦労したし」

「…え?」

「え、じゃねえよ。オレが実家暮らしなの、知ってんだろ。連れ込むわけに行かねえし、それに向こうも実家だったからなあ、オレの場合は」

「…そういえば、去年の今頃に彼女ができたんだったな。…あれ?最近見かけないね」

「こないだ別れた」

「……あ、そう…」


ユーリの彼女は学生ではなかった。確か同い年の社会人だったと記憶している。アルバイト先に客として来て知り合った、と言っていただろうか。

「向こうは仕事してっから、それこそ週末しか機会がねえだろ?でも毎回オレが金払ってたらバイト代なんてあっという間に吹っ飛んじまうし、かと言って向こうは払いたがらねえし」

「…機会…。男女の付き合いって、そればっかりじゃないと思うのは僕だけなのかな…」

「うっせ。そんで、一人暮らししろとか言い出してさ。金は続かねえし、面倒くせえから別れたんだよ。向こうも何も言わなかったし」

「はあ。…まあそれはいいんだけど、とにかくそういう理由で迷惑してる、って話」

「大家に言ってみれば?」


実は、既に言ったことがあった。
しかしそもそもが学生向けの安いアパートだ。大家もこのような話は耳にタコなのか、翌日ポストに「近所迷惑には気をつけましょう」という内容のチラシが一枚、入っていただけだった。

無論、その程度で若い欲望を抑えられるはずもなく、現在に至るというわけだ。

「もう仕方ないとは思うんだけど、推敲には集中できないし、また明日も騒がしくなるのかと思ったらもう、憂鬱でさ…」

「明日?…ああ、明日は金曜か。はは、そりゃ間違いなく賑やかになるだろうな」

「だから、笑い事じゃないって…」

今日何度目か知れないため息を零しながら、フレンはすっかり冷めてしまったハンバーグを口に運んだ。

ユーリもその様子を眺めつつカレーを食べていたが、ふと思いついたように顔を上げると、ニヤリと口元を歪ませる。


「なあ、フレン」

「ん?」

「明日、おまえんとこ泊めろよ」

「………何で?」

確実にうるさくなる、という話をしたばかりだ。
何故わざわざそんなところに来たがるのかわからなかった。

「オレの卒論の手伝いしてくんない?」

「…それだったら、君の家に行ったほうがいいんじゃないか」

「やだよ落ち着かねえ。それに、一人だから悶々とするんだよ。二人だったら気も紛れるし、次の日は休みだから眠れなくても問題ねえだろ?いっそ一晩中起きとくとか、さ」

「問題はそこじゃないんだけど」

「いいから。で、どうなんだ?泊めてくれんの?」


フレンはユーリをじっと見つめてしばし考えた。

確実に真意は別のところにあるような気がしたが、確かに一人よりは多少なりとも気が紛れるかもしれない。
久しぶりに、二人で夜通し語り合うのも悪くないか、と思った。


「わかった、構わないよ。でもちゃんと卒論はやるからな。準備してきなよ?」

「へいへい大丈夫だよ。んじゃまた明日な。…楽しみにしてるぜ」


席を立って食堂を後にするユーリの背中を見送りながら、何故かフレンは一抹の不安を感じていた。








ーーーーー
続く
▼追記

SWEET&BITTER LIFE・2(拍手文)

SWEET&BITTER LIFE
第二話





「はああぁぁ〜……」

会社に戻った僕は、自分のデスクに突っ伏して盛大なため息を吐いていた。
既に何度目かわからない。

「…どうしたんですか」

のろのろと声のほうに顔を向けると、一年後輩のソディアが心配そうな様子でこちらを窺っている。

「どこか体調でも悪いんですか?」

「いや、そういうわけじゃ…」

簡単に今日の出来事を説明したら、ソディアは何故か微妙な表情になってしまった。

「どうしたんだ?」

「いえ…。つまり、先輩は『取材』に失敗して落ち込んでいる、と」

「?そう言ったよね」

「ええ…」

「あー、本当に失礼なことをしたよ…。もう絶対、変な奴だと思っただろうなあ、僕のこと…」

「…………」


ソディアはため息を吐いて目を逸らしてしまった。
何か変なこと、言っただろうか。

と、彼女の視線がデスクに置かれた小さな箱に向けられる。

「先輩、それは?」

「あ…」

そういえば、帰り際に彼からお土産をもらったんだった。
彼…。ユーリの店のケーキを。すっかり忘れていた。
しばらく出しっぱなしだったが、大丈夫だろうか。
僕は慌てて箱を開けた。


中に入っていたのは四種類のケーキだった。

粉砂糖が振られたシンプルなガトー・ショコラに、しっかりと焼き色のついた大ぶりのシュークリーム。
それとは対照的に、淡い焼き色のスフレタイプのチーズケーキ。
そして…これまたシンプルなプラスチックのカップに入った、プリン。別添えのカラメルソースが箱の底に転がっている。

「そのお店で買って来たんですか?」

「いや、帰る時にお土産にくれたんだ」

「…わざわざ、ですか?」

ソディアは箱のケーキと僕を交互に見て、怪訝そうな顔をした。
なんだか、さっきから質問ばかりされている気がする。

「うん、これやるからとりあえず帰れ、って言われてさ…。申し訳ないと思うよ」

「定番のものばかりですね」

「そうなのか?ソディア、あの店に行ったこと、あるのかい?」

「いえ。でも、大抵の洋菓子店で、この中のどれかを看板商品にしていたりしますね。もちろん、店によって様々ですが」

「へえ…そうなんだ」

僕はそれほど甘いものが好きじゃない。嫌いじゃないけど、毎日欠かさず食べる、ということもないし、ましてや自分から洋菓子店に出掛けてケーキを買うこともほとんどない。

今までの取材では、どちらかと言えば夜営業がメインの飲食店か、レストランのようなところが多かったし、付き合いで行くのもそういった店ばかりだ。
…そういえば、今回みたいな店の取材は初めてかもしれない。


「僕はこんなに食べられないし、どれか食べるかい?」

「いえ、さっき食事をして来たばかりなので…」

「そうか。…まあわざわざくれたんだし、家で少しずつ食べようかな」

「多分、そのほうがいいと思います」

「え?」

「それでは、失礼します」

なんだかソディアの反応がよくわからなかったが、これ以上うだうだしてても仕方ない。
僕はケーキを給湯室の冷蔵庫に入れ、今日の報告をする為に上司のもとへ向かった。




報告後は他の取材についての段取りやら何やらでそこそこ忙しく、帰宅したのは既に日付けも変わろうかといった時間だった。
普段、付き合いがなければこんなに遅くなることはあまりない。
最初の仕事―ユーリの店での失敗から何故かなかなか僕は立ち直れず、どうにも作業がはかどらなかったんだ。
あまりミスを引きずることはない性格だと自分では思うんだけど…。


シャワーを浴びて軽く食事をして、もらったケーキの中からプリンを取り出した。
とりあえず一番日持ちしなさそうなものから食べよう、と思ったんだ。

別添えのカラメルソースをかけて、しげしげと眺めてみる。
何の飾り気もない、至ってシンプルすぎるプリンだ。カップにも何の柄もない。

「…給食のデザートに、こんなのなかったっけ」

そんなことを考えながらスプーンで掬ってひと口食べてみた。

「…おいしい…」

正直、僕は驚いていた。少し柔らかめのプリンはかなり味が濃厚で、卵や牛乳の風味もよく感じられる。
でも臭みとかはなくて、素直に美味しいと思った。
甘味もちゃんとするんだけど、カラメルソースが苦めのせいなのか甘すぎるとも思わなくて、気付けばあっと言う間に完食してしまっていた。
今まであんまりプリンとか食べなかったんだけど、これは美味しい。

結局その後チーズケーキも食べてしまった。こちらは甘さ控えめで、ふわふわの食感がなんとも言えなかった。

お店が人気なのがわかる。なんて言うか、あと一つ食べたくなる、そんな感じだ。
甘いものが特に好きなわけではない僕ですらこうなんだから、甘党の人にはたまらないのかも知れない。

…そういえば、ソディアは今日もらったケーキは定番だ、って言ってたっけ。
定番、ということは、それによってお店の基本評価が大きく左右されるということだ。

店を訪れるお客の多くが注文する「定番」が美味しくなければ、他の商品に手を出す気にならない。
初めて行く店で、いきなり変わり種にチャレンジする人はそんなにいないだろう。

彼は、あえて定番ばかりを選んで僕に渡したんだろうか。
だとすれば、何故か。
そこまで考えて、僕はやっと、あることに気付いた。

彼は僕の話をろくに聞きもしなかったのに、わざわざケーキをくれた。それはつまり、自分の店のことを知ってもらいたかったからではないのか、と。

僕は取材先の店を、毎回事前に利用しているわけではない。
自分が好きな店と、仕事として取材をする店は違う。個人的に利用してみてあまり好きではなかったところは、どうしても話をしていてやりづらくなる。

本当はその辺りを適当にやり過ごせばいいんだけど、僕はどうにもそういうのが苦手だった。

まあそういうのもあって、あまり取材先に深入りすることはない。
今回も、店の評判を聞き付けた上司に言われて行っただけだった。

結果、彼には失礼なことを言って怒らせてしまい(これは僕の勘違いのせいだけど)、店のこともろくに知らずにこちらの事情ばかり押し付けた。
それなのに、彼は自分の店を僕に知ってもらおうとしてくれた。
…多分、だけど。
この店に来るのは初めてだよな、と言った彼の言葉の意味は、こういうことだったんじゃないか。

「…ちゃんと、謝りたいな」

自分の失礼をもう一度きちんと謝って、ケーキのお礼を言いたい。

仕事がどうとかではなく、とにかく彼に会いたいと思っていた。



この時は、何故こんな気持ちになるのか自分でもわからなかった。







ーーーーー
続く





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