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君の隣に

フレユリでユーリが大切なフレンのお話です。








「ユーリ、大丈夫か!?」

「さすがだな、ユーリ!!」

「ユーリ、あまり無茶をしないでくれ…」

「いい加減にしないか!全くユーリはいつまでたっても!」






一日に何回、彼は「ユーリ」を構えば気が済むのか。

いや、気が済むことなどないのではないか。

毎日繰り返されるその友愛の表現は、本当に無意識なのか?

少しばかり、行き過ぎてはいないか。

今日も今日とて繰り返されるその光景を、旅の仲間達はただ黙って見守るのだった。







「勘弁しろよ…細かすぎだろ、おまえ」

「いや、ユーリが適当すぎるんだ」


また始まった。
仲間達の視線に気付きもしない二人は、口論という名の愛情(?)表現を開始した。
ほぼフレンの一方通行ではあるが。


「だいたいおまえ、なんでこっち来んだよ。今日の料理当番はオレなんだから、向こうで待っとけって」

ユーリは煩さそうに手をひらひらさせて、「しっしっ」とフレンを追い払うマネをした。
するとフレンがまたそれにいちいち真面目に反応する。

「最近、君ばかりが食事を作らされてるじゃないか。前線で戦って疲れてるのに…、僕も手伝う」

「そりゃお互いさまだろ。つか、頼むから料理は手伝ってくれんな」

「じゃあ、何だったらいい?」

「向こう行って休んでろ。それが一番助かる」

「それじゃ何の解決にもなってない!」


いい加減焦れたユーリが調理の手を止め、腕組みをしてフレンを睨みつける。

「あのな…。さっきから全然、作業が進まねえんですけど?おまえ、オレの邪魔したいわけ?」

「そんな訳ないだろ!僕は君の手伝いがしたくて…」

ユーリがはあ、とため息を吐く。

「大袈裟だなあ…大丈夫だって言ってんだろ」

「でも!」

「しつっけえな!邪魔だっつってんだよ!!」

「…………っ!」

ユーリに怒鳴られたフレンがしゅん、と俯く。
その様子はまさに叱られた子供そのもので、とても次期騎士団長だとは思えない。

「…ごめん。僕…戻るよ。しつこくして、悪かった」

「あ、フレン…」

とぼとぼと去って行くフレンの背中を見送りながら、ユーリもすっきりしない気持ちになる。


ここ最近、いつもこうだ。
フレンの気持ちは嬉しいが、自分を気遣うぐらいならエステルとか、他の仲間を優先してほしい。
真っ先に自分に構ってくるフレンにどうにも違和感を感じて落ち着かないのだ。

「なんなんだよ…あいつ」

以前はああではなかった。

小言も多いが普通に軽口も言いあって無茶もして。
なのに最近、フレンの自分に対する接し方は何かおかしい、とユーリは思っていた。

何が、と聞かれても答えられないのだが。

考えても答えが出ないので、諦めて作業の続きを始める。
…だが、

「ッて…!」

集中力がないのか、珍しく包丁で指先を切ってしまった。

「うぉ、結構深いなー…」

右手の人差し指の先から血が流れている。
このまま調理を続ける訳にはいかなくなってしまった。

ユーリが背後の仲間達を振り返ってみると、皆思い思いに寛ぐ様子が見える。
フレンの姿はない。
辺りの見回りにでも行ったのだろうか。

(ま、いたら絶対また何か言われるし、丁度いいか)

とりあえず指先を治療してもらおうと思い、ユーリは仲間のところへ近付いて行った。




「あれ、ユーリどうしたの?ごはん出来た?」

「あー、ちっと怪我しちまってよ。このまんまじゃ料理できねえし、エステルに治してもら」

「ユーリ!!怪我してるじゃないか!!」

仲間達が一斉に振り向く。

(うわ、すっげータイミング、悪ぅ…)

ユーリの言葉を遮って木々の間から姿を現したフレンは、抱えていた薪を取り落として全力で駆けて来ると、仲間の視線も気にせずにユーリの手を握り、間髪入れずにファーストエイドを唱えた。

「大丈夫かい、ユーリ?他に怪我は?」

「いや、包丁でちょっと切っただけ…」

「ちょっとだって?結構深かったぞ!?何をやってるんだ君は!」

「何って、メシ…」

「やっぱり君も疲れてるんだよ。こんなケガなんて、らしくない。今日は僕がやるから、休んでてくれ」

言うなり歩いて行ってしまったフレンを唖然としながら見ていたユーリだったが、仲間達の冷たい視線に気が付くと申し訳なさそうに頭をひとつ掻いて謝った。

「…悪り。今日のメシ、覚悟しといてくれ」

ユーリの手料理がご破算となってしまった事に、仲間達は一斉に落胆のため息を吐いて肩を落とした。

せめて、フレンが余計な気を利かせないことを祈りながら。






「ご、ごちそうさま、でした…」

「お粗末さまです」

(はあ、今日もハズレ、か…)

ユーリは仲間達の皿を見た。完食しているのは、作った本人を除けば自分だけだ。食事を残すのはよろしくないが、こればっかりは作り手にも大いに問題があるため怒る訳にもいかない。

「ほら、片付けるから皿寄越せよー」

立ち上って皆の食器を集めるユーリに、フレンが訝し気に言う。

「何してるんだ、ユーリ」

「片付けぐらいやらせろよ。今日、もともとオレが当番だったんだし」

しかしフレンはその腕を掴んで食器を奪い取ると、ユーリの肩を押さえて無理矢理座らせた。

「ちょ…おい!」

「休めと言っただろう。僕がやる」

「おまえなあ…!」


ユーリの抗議を丸っきり無視したフレンが行ってしまった後、事の成り行きを黙って見ていた仲間が次々とユーリに話し掛ける。

「ちょっと、どうしちゃったのよフレンちゃんてば」

「もともとアンタには煩さかったけど、最近特にひどいわね」

ユーリにも心当たりなどない。

「いや、オレもさっぱり」

「いっしょに旅するようになった頃はここまでじゃなかったよね」

「そうですね…。むしろ少し距離を置いてた感じでしたし」

そうなんだろうか。

それについてはユーリは意識していなかった。
しかしエステルにそう見えたというならそうなのかもしれない。
彼女はあれで、人をよく見ている。

「ここであれこれ言っても仕方ないのじゃ。ユーリ、ちゃんとフレンと話したほうがいいのと違うか?」

「話、ってもなあ…」

どうやら原因が自分にあるらしいのは気付いているが、どうやって切り出したものやら。
何かに怒っているふうでもないし、むしろ気を使われている気もしなくもない。
考え込むユーリにジュディスが微笑んだ。

「今日は彼が見張り番だったわね。付き合ってあげたらどうかしら」

「はあ?なんでだよ」

一晩中ずっとという訳ではないが、寝ずの番はなかなかしんどい。だから交代制で、昨晩はユーリだった。
連続は堪える。

しかしそんなユーリの考えをジュディスはばっさり切り捨てた。

「あら、今日は彼にずいぶん助けてもらったのではないの?酷い人ね」

頼んだわけではない上にむしろ酷い目にあったような気もする(主に食事について)が、怪我については確かに心配をかけてしまった。

「…そうだな。人差し指の礼もまだだし、ついでにちょっと話、聞いてみるか」

「それがいいと思うわ。久しぶりに、水入らずで、ね」

ジュディスが意味有り気に笑い、向こうで片付けをするフレンを見る。

――頑張ってね?

「どうした、ジュディ?」

「なんでもないわ。さ、私たちはテントの準備をしましょう?男手があるうちに」

はいはい、と言いながらユーリは仲間と共にテントの設営に取り掛かる。

その様子をフレンがじっと伺っていたことを、ユーリは知らなかった。






ーーーーー
続く
▼追記
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