《世界》
「ナンバー21。リバース。」
彼女は、あまりにも悲劇的な口調で言った。
「世界の逆位置は、調和の崩壊を意味するのよ。」
放課後の教室。
テスト勉強をするために居残りをした俺と、幼なじみの二人。
休憩がてら、戯れに行ったカード占い。
彼女曰く、簡単なワンスプレッドの占い。
ただ単に混ぜただけのカードの山から一枚だけ引く。
それが結果になるという簡単な占いだ。
タロットの初歩らしい。
「調和の崩壊だなんて、随分酷い話ね。」
「まぁ、ご存知の通り、俺は安寧主義者だからな…。」
できれば面倒なことには巻き込まれたくない。
物事を後回しにしたがる性格なのだ。
それなのに、調和が崩壊することになるのか…。
でも、それはしょうがない事なのかもしれない。
「その上、未完成だなんて意味も含むのよ?」
「完成させていない物、か…。」
結局、後回し後回しにしてしまえば、完成も後回しになっていってしまう。
全部全部未完成なままで満足してるフリをして。
俺にだって、完成させたいものくらいあるのに。
「あとは、臨界点って意味もあるわね。何かがギリギリって事なのかしら。」
「ギリギリか。」
「危ない位置?」
「そうかもな。」
そんなに我慢しているワケでもないが、我慢していると言えば我慢しているという事にもなるのか?
ギリギリの位置と言えば、それもギリギリなワケだ。
いや、ギリギリなのだ。
我慢して、ギリギリで、それでも完成させる事で調和が崩れる事が怖くて。
「…結構当たるんだな、ソレ。」
「あら。大当りなの。今、相当ヤバいのね。」
「占いも侮れないな。」
「大丈夫よ。もっとポジティブに考えてみたら?調和の崩壊って事は、現状の打破とも考える事ができるでしょ?」
「あぁ…、確かに。」
「結果は結果として、後は啓治の考え方次第よ。」
「そうか…。……うん。ありがとうな。」
「いえいえ。」
確かにそうかもしれない。
考え方一つで意味は変わる。
俺は立ち上がった。
「ちなみに、あなたは占いにどんな意味を込めたの?」
自分の知りたい事をタロットに聞くので、タロットを一枚引くときに何を聞きたいかを強く念じる。
それがルールらしい。
「聞きたい?」
「差し支えない範囲でいいわよ。」
だが、占いに聞く事って、案外決まりきっている事だろう?
「アリカ。」
「なぁに?」
「ずっと好きだった。付き合ってほしい。」
幼なじみがずっと大好きで。
でも、関係は恋人未満で。
それを壊すのは怖くて。
恋占いなんて信じきれない物だったが、侮れない物だな。
end
後書き→