「兄さん僕ね、学校の先生になるのが夢なんだー‥‥ちょっと兄さん、聞いてるのー?」
うん、聞いてるよ‥‥‥‥。
「‥‥‥‥僕と兄さんは一卵性の双子なのに、何で僕は魔力が弱いんだろう‥‥」
‥‥違うよルグレ、お前は気付いてないだけなんだ、僕だってそんなに強い訳じゃないし、それにルグレの"右手"には‥‥‥。
「もっと頑張らないと‥‥‥」
‥‥‥もう十分だよ‥‥‥ルグレはずっとずっと、みんなの見えないところで努力してたじゃないか‥‥‥。
「兄さんも子供大好きだよね‥‥‥僕の代わりに‥‥素敵な先生に‥‥‥」
‥‥ま、待ってよ‥‥僕を1人にしないで‥‥。
"‥‥‥僕にもっと、守れるほどの力があれば‥‥‥ルグレは‥‥‥‥"
これは今から5年前、17の頃、僕が飛び級制度で2年制の短期大学に入学し、短大に通っていた頃のお話。
(※この世界では専門系の大学以外なら長さ関係なく教員免許とれます。)
僕には双子の弟が居る。
名前はルグレ、僕と同じく勉強が好きで、教師になるのが夢という、僕のただ一人の大切な家族。
両親は僕らが12の頃に亡くし、祖母に引き取られたが、祖母もついこの前、人生を全うし、この世を去った。
ルグレは、教師たるもの常に賢く見えないとダメなんだーっとか何とかで、どこで買ったのか、いつも"モノクル"を身に着けていた。
元々身体も弱く、その為か僕に比べると半分近くしかMPが無かった。
他にも、一卵性の双子なのに、自分だけ眼の色が違うと言う事も‥‥‥ルグレは右は水色、左は赤眼のオッドアイで、これは生まれつきでこうなった。
ルグレはずっとその事でコンプレックスに感じてるみたいで、兄さんが羨ましいっていつも僕にぼやいてくる。
僕はルグレの眼、綺麗で素敵だと思うんだけどな‥‥‥。
そんな僕の弟には、教師になると言う夢の延長戦として、大きな野望があった。
それは、我が星ふしぎスター1の名門進学校として名高い、私立『ふしぎ魔導学校』の教師に就く事だ。
ふしぎ魔導学校は1番の名門校、しかし、悪い噂も多く、一部の生徒達を劣等生として扱い、平等に接していない事、生徒格差、いわゆるスクールカーストが見えないところで存在するという事だ。
噂だとその制度は理事長キッカケで生まれたとされていて、子供が大好きなルグレはそれがすごく辛い、何とかしてふしぎ魔導学校を変えたいと、みんなが笑える学校にしたいと、常々言っていた。
ルグレはいつも「僕も兄さんのように普通に魔力があれば、そんな野望も無謀にならなくて済みそうなのになぁ」なんて言ってるけど、
僕は思う、ルグレのその子供達を想う心は、純粋に素敵だと‥‥‥。
僕も学校の教師にはなりたいとは思っているけど、ルグレの様な大きな野望がある訳でもなく、ただ大好きな子供達と教職という形で接する事が出来たらなぁって位で。
だから思う、ルグレは、絶対に素敵な良い先生になれるって。
そんなある日、僕とルグレの二人がいつものように講義を受け、講義終わりにいつも寄る魔導ショップに向かう道中‥‥。
「でさー、その講義の時の教授が‥‥‥‥ん‥‥‥?」
「‥どうした、ルグレ‥‥?」
「‥‥‥‥」
「‥‥‥‥ルグレ‥‥‥?」
ルグレは聞いてもずっと無言のまま‥‥‥。
ダッ。
「あ、ちょっと、どこいくんだよルグレ!!」
すると、急に顔を強張らせたかと思うと、いきなり走り出し、魔導ショップから少し離れた‥‥‥‥"ふしぎ魔導学校"のある方角へ向かっていった。
第六感ですごく嫌な予感を感じた僕は、急いでルグレの後を追った。
ルグレを追ってふしぎ魔導学校の正門入口付近につくと、僕がそこで目にしたものは‥‥‥。
「‥‥‥やめて!!!私の生徒に手を出さないで‥‥‥!」
「‥‥‥その力は今後、あなた方の厄介にしかなりませんよ‥‥‥?」
「‥‥フヴー、フヴー」
「‥‥か、カナ‥‥‥お願い、元に戻って‥‥!カナに、手を出さないで‥‥‥」
「‥‥‥やっぱり‥‥強い力を感じたと思ったら‥‥‥」
「こ、これは‥‥‥」
そこで目にしたもの‥‥‥それは、一人の女性教師と思わしき女性、
涙目でやめてやめてと訴える、おそらく初等部3、4年ほどの幼い少年、
それをよそに、一人の女児生徒を連れ去ろうとしているらしい白服の男‥‥(見た所組織の下っ端か何かだろう)
そして、明らかに"覚醒"を起こしてる少女の姿が目に飛び込んできたのだ。
実はふしぎ魔導学校にはもうひとつの噂があり、それは、強い力、"覚醒"を持つ生徒を狙うと言う、とある組織に対抗する諜報部があるという事。
その部では普段は教師の顔をしていて、このような自体があった場合に想定して、それに対抗する活動をしているらしい。
今の様子を見る限り、本当の様だね‥‥怯えてる教師の女性は諜報部では無さそうだけど‥‥。
ルグレは、この少女の覚醒の力を、感じ取ってここまで来たんだ‥‥‥そう、ルグレは気づいてないだけで、人一倍、不思議な力を感じ取る事が出来るのだ。
おそらく、ルグレが物心つく前に母さんがルグレの右手に宿した真の力"治癒魔導"の影響で体質が変わった為だと思う。
ルグレ本人は治癒魔導を宿された事すらも知らないんだけどね。
ルグレは白服の男に言った。
「その女の子から離れろ!!」
「おやおや、部外者が口を挟まないで頂けるかな?これは我々の問題ですよ?」
「確かに今は部外者だよ、けどな、僕はいずれここの先生になってお前らのようなやつから生徒達を守るって決めてるんだ!!生徒達を笑顔にするんだって、だから今、ここでお前らを黙って見過ごす事なんて出来ないね!!!」
「ほう‥?それはそれは‥‥、しかし、あなたからから感じるMPの量は少ないようですが‥‥?」
「‥‥‥魔力は少なくとも、その分知恵と技術で、僕は生徒達を守る‥‥!」
「ほう?ではやってみてください」
男はそう言うとルグレに向かって魔法を向ける。
ルグレの専攻魔導は水、氷魔導‥‥それに対し、男の使う魔導は弱点属性の風魔導、それも、ルグレには耐え切れないほどの力を使ってきたのだ。
ルグレは水の防御魔導で対抗したが、弱点属性の為完全には防ぎきれない。
「‥‥うぅッ‥‥」
「ルグレ‥‥!!!」
「‥‥兄さん‥‥僕は良いから‥‥あの子を、覚醒で苦しんでる少女を、助けてあげて‥‥」
「‥‥ルグレ‥‥わ、分かった‥!」
僕はそう返事を返すと、少女に駆け寄る。
トランス状態のその少女は警戒心が強く、魔力の暴走を起こしてると言った状況だった。
「‥‥ヴゥー、ヴゥー、こっちに‥‥コッチニクルナ‥‥‥」
「‥‥お兄さん‥‥あの、カナを‥‥‥」
「‥‥?」
「あの女の子を、助けて‥‥ください‥‥僕の力じゃ‥‥カナを苦しみから助けてあげられない‥‥」
「‥‥‥あの子はカナさんと言うんですね‥‥大丈夫です、僕が、カナさんを覚醒から救い出してあげます‥‥!」
少年は泣きながら僕にそう訴えかけ、それに答えると、僕は少女‥‥カナさんに駆け寄る。
カナさんは僕にも強い炎魔導をぶつけてきた、けど、僕の力はルグレと同じように水、氷魔導の専攻、直接攻撃を受けてもそこまでダメージを受ける事は無い。
「あ、あなた何やってるんですか‥‥そんな無防備に近付いては‥‥」
女性教師は何の魔法も使わずにカナさんに近寄る僕に、そう問いかけるが、僕はこう返す。
「‥‥怯えている子に、何の罪も無いこの子に、何故魔力を使う必要があるのです、純粋で一生懸命な子供達に、大人の身勝手なエゴ(魔法)を押さえつけて良い筈が無いでしょう」
そう返すと僕はまたカナさんに近寄り、カナさんをキュッと軽く抱きしめると、カナさんは少しびっくりしつつも、人の体温に触れたことで落ち着いたのか、覚醒状態が解除され、スッと意識を失い、眠りにつく。
「カナ‥‥もう、カナ、大丈夫‥‥なの、お兄さん‥‥」
「‥‥えぇ、疲れて眠ってしまったようですが、覚醒状態は解除されました‥‥疲れが取れるまでゆっくり休ませてあげてください」
「‥‥そう‥‥‥ありがとう‥‥‥お兄さん‥‥‥ありがとう‥‥‥」
少年は僕の言葉でホッとしたのか、また涙をボロボロと流す。
カナさんと、この子を助けてあげられて、良かった‥‥‥‥。
ドーーーン
「‥‥‥っ!?」
ホッとしたのもつかの間、後ろから大きな爆音が聞こえる‥‥‥‥嫌な‥‥‥嫌な予感がする。
僕はぱっと振り向くと、白服の男がフラフラな状態でいて、退散とばかりにテレポート魔導を使う。
僕も逃がすものかとすぐに魔法を使うも、一歩及ばず逃げられてしまう。
「クッ‥‥‥逃げられたか‥‥‥ル、ルグレは‥‥‥?」
男が逃げ、僕はすぐに爆音のあった方へ走る‥‥‥‥すると‥‥‥‥。
「ルグレ!!!」
ルグレは‥‥‥酷い魔導傷を負い、その場に倒れていた。
「‥‥‥兄さん‥‥‥」
「‥‥‥ルグレ‥‥‥どうして‥‥‥」
「‥‥‥へへ、ドジっちゃった‥‥‥ゲホッ‥‥‥」
「‥‥‥しゃ、喋ったらダメだよ、余計に悪化しちゃ‥‥」
「‥‥兄さん、ごめんね‥‥‥」
「‥‥‥え‥な、何、が‥‥?」
「‥‥兄さんを、1人置いてしまう、こと‥‥」
「!!!何言ってんだよ‥‥そんな、これが最期、みたいなこと‥‥‥」
「‥‥いくら魔力の低い僕だって‥‥‥自分の最期くらい‥‥‥分かるよ‥‥‥」
「‥‥嫌‥‥‥いやだよ‥‥‥そんなの、僕、認めない‥‥‥」
ルグレの僕を掴む右手が少し弱くなる。
「‥‥ルグレ‥‥」
「‥‥兄さんも、どこにいくかは、決めてなかったけど‥‥学校の先生になるって、そう、言ってたよね」
「‥‥‥うん」
「じゃあ‥‥さ、僕の、代わりに‥‥ふしぎ魔導学校の先生、目指してよ‥‥」
「だ、だから、そんな事言うなって‥‥‥ルグレ‥‥」
「‥‥兄さんも子供大好きだよね‥‥」
「‥‥‥うん、大好きだよ‥‥ルグレの事だってそうだよ‥‥大切な僕のただ一人の、誰よりも優しい大好きな弟‥‥‥」
「兄さんだって優しいよ‥‥あの子、助かったじゃない‥‥‥男の子も、ホッとした顔してるし、兄さんが助けてあげられたからだよ‥‥‥」
「ルグレ‥‥‥僕は‥‥‥」
ルグレは掴んでいた右手を僕の右手に重ねると、ボソボソと呟き、ルグレの治癒魔導が、僕の右手に移った。
「え‥‥‥これ、治癒魔導の‥‥‥ルグレ‥‥‥知ってたの‥‥?」
「‥‥うん、と言っても‥‥この前おばあちゃんが亡くなる前に聞かされたんだけどね‥‥僕はもうダメだから‥‥力を継承しないといけないから‥‥ゴメンね、押し付けて‥‥‥でも兄さんならきっと大丈夫‥‥‥」
「ルグレ‥‥‥」
「‥‥僕の代わりに‥‥素敵な先生に‥‥‥」
ルグレは、最期に笑顔を見せると‥‥‥ルグレの手から力が抜け、掴んでいた右手からその手は離れた。
「‥‥ルグレ‥‥?ルグレ!!いやだよ‥‥目を開けてよ‥‥‥僕を‥‥‥一人にしないで‥‥‥」
それから間もなくして、ルグレの通夜を終え、ルグレは、祖母や両親の眠る同じ場所に寝かせてあげる事に。
ルグレはあまり物を持たない主義で、持ち物と言えば、常に身に着けていたこのモノクル位だ。
モノクルは奇跡的に傷ひとつ入っていなかった。
あの日から5年の月日が流れ‥‥‥‥‥。
「‥‥‥先生‥‥‥‥もう、ソル先生ってば‥‥!」
「‥‥え、あぁ、すみません、どうされましたか、カナさん」
「ソル先生、時々うわの空になってる時ありますね‥‥何だか、寂しそうな顔してて、何だか、何だか私、心配で‥‥」
「‥‥ふふ、大丈夫ですよ、私にはカナさん達2年生の皆さんや、3B(3年Bクラス)の生徒達がいつもいますからね‥‥」
ルグレの遺志を継ぎ、あれから猛勉強を重ねた私は、ルグレの望みだったふしぎ魔導学校の教師として、学校卒業後、19の頃にふしぎ魔導学校に赴任された。
志望していた中等部Bクラスの生徒達と触れ合いながら今の副担となってるクラスに勤めている。
教師となってからも色々な事があったけど、今日もまた、大切な生徒達と楽しく、そして授業だけでは学べない、大切な事を生徒達に教えるのだ‥‥‥ルグレの形見のモノクルを身に着けて‥‥‥‥。
ーソル先生過去編、終わりー