ゼルフェノア本部・駐車場――
朝倉達解析班は専用車両に怪人捕獲装備や装置を積み込んでいる。
そこに通りすがりの御堂が。
「朝倉…何やってんの」
「見りゃわかるでしょ。怪人捕獲装備を積み込んでるのよ。私の推測だとそろそろ怪人が出現するはずよ。解析班のセンサーは司令室よりも高感度だからね」
「それにしても解析班の専用車両…初めて見た。でかくない?」
御堂は組織の専用車両=ワンボックスカーのイメージがあるのだが、解析班専用車両は2つありひとつはワンボックスカー、もう1つはトラック。
しかも軽トラみたいなもんじゃない。そこそこ大きい専用のもの。
「解析班の専用車両…でかっ」
御堂は思わず声を出す。
「中は荷物積めるスペースがメインなんだけど、解析機器もあるからでっかいの。運転手も専属でいるからね」
「見た目は運送屋のトラックじゃねーか…」
「私達はそっちの車で移動するわけね」
「怪人捕獲って、解析班3人で行くわけじゃねぇんだ…」
「当たり前でしょー。私達は直接戦闘しないから戦闘慣れしてないし、だから桐谷さんと渋谷を勝手に借りたわよ」
朝倉のやつ、マジだ…。
解析班専用車両を使うってよほどのことだ。あのトラックはただのトラックじゃない。装甲まで付いているあたり、戦闘仕様。装甲車をでかくしたような感じらしい。
朝倉達5人とトラックの専属運転手は車に乗り、ある地点へ行ってしまう。
「御堂さん、怪人は2体出るはずだからもう1体は倒してね。私達は廃工場の方向に行くから」
それから約3分後。本部にアラートが鳴った。
解析班の怪人探知センサーが高感度なのは本当らしく、朝倉達は約3分前に動いてた。
「和希、怪人が出た!2体出現してる。1体は廃工場、もう1体は市街地だ」
宇崎が司令室に来た御堂に伝える。
「…朝倉達ならもう廃工場に行ってるぞ。怪人捕獲のためにな」
「はーやっ!」
鼎は御堂にあるものを渡す。それは自分の対怪人用ブレード・鷹稜(たかかど)だった。
「鼎、どういうことだよ!?これ…」
「和希はわかっているはずだ。私が『戦えない身体』なの、知っているだろ。
鷹稜を持っていけ。市街地には晴斗が先回りしていると聞いた」
「晴斗が先回り!?あいつせっかちすぎだろ」
「せっかちなんかじゃない。たまたまエンカウントしたと通信が入った」
晴斗はアホなのか、運を持っているのか時々わからなくなる。
「わかったよ。んじゃ持ってくわ」
御堂は鼎のブレードを受け取った。
市街地――
晴斗は単独、機械生命体に挑んでいた。いくら身体能力が高い晴斗でも、装甲の硬い敵相手だと苦戦を強いられる。
機械生命体=マキナは先に市民にビームを当て、眠らせていた。やはり敵は市民には興味がない。
そんな戦闘中の晴斗に通信が入る。
「晴斗!思いっきり暴れろ!!解析班は廃工場の怪人捕獲に行ったからそっちは倒せ!」
「2体いるの!?」
「朝倉が言うにはそうだとよ。捕獲するのは廃工場の方だからそっちは思いっきり暴れろだそうな」
「わかった!!」
晴斗は縛りがないとわかるや、猛ダッシュで助走し斬りかかる。助走が甘かったのか装甲に傷がついただけ。
その隙にマキナは晴斗に向け、小型爆弾を発射。
前回よりも微妙に強くなってないか!?
晴斗は走りながら爆弾を避ける。なんとか攻撃のチャンスを作りたいが、1人だとタイミングが…。
廃工場――
朝倉達、解析班3人と助っ人に駆り出された桐谷と霧人の5人。廃工場にはマキナが1体。
朝倉達はトラックから装備を降ろしつつ、先に怪人と対峙している2人に彼女は通信を入れる。
「桐谷さん、渋谷。なんとか引きつけておいて!
桐谷さん、ロケット砲は使っていいけど加減してね」
「加減ですか…わかりました。サンプル採取のためならやりましょう」
桐谷はいきなりロケット砲を発射。撹乱から戦闘は始まった。
これはあらかじめ解析班の3人との作戦会議で決めていたのである。撹乱スタートせよと。そこから状況によって作戦を変えるよと。
「チーフ、セッティング出来ました!」波路(はじ)の声。
「よし、まずはcode:A実行っ!」
朝倉の指示のもと、マキナ生け捕り作戦がついに開始。朝倉自身も弓矢で応戦している。
神(じん)と波路は解析班の中では比較的戦闘力が高いため、今回の捕獲任務に選抜された。
解析班は7人いるがほとんどインテリ・インドア系なせいか、戦闘出来る隊員はチーフの朝倉含めて3人しかいない。
解析班は元々戦闘に特化した部署ではないため、戦える人員が限られている。
畝黒(うねぐろ)コーポレーション・地下研究所。
イーディスはDr.グレアに文句を言っていた。
「ちょっとグレア?話が違うじゃないの。なんでマキナちゃんを2体出したのよ!?
貴重なマキナでしょ?どうすんのよ!!これで残機は3体じゃないっ!」
「まぁまぁ落ち着いて。ゼルフェノアを崩壊させるのはマキナじゃないだろう?君が動かないと。
君だって嫌いな紀柳院鼎を陥れたいんなら実行したら?」
「もう考えているわよ…。鼎をどん底に陥れる手段、浮かんでいるの。
まだ機は熟していないからね。それまでは高みの見物よ〜♪」
廃工場。
「code:A失敗しました!!」
波路の声がした。
「code:Fを実行する!!」
「いきなりcode:F!?朝倉…お前無謀すぎだぞ!?」
冷静な神が珍しく慌ててる。
「とにかく装甲は傷つけてもいいからコア壊すなよーっ!!code:Fはちょっと手荒になるけど、確実なのはこれだから!!」
朝倉はそう言いながらある装置を起動。怪人捕獲用に作った専用装置だ。宇崎の研究資料を参考にして作ったものだった。
この装置は対象の動きを鈍らせることが出来る。完全には制御出来ないため、時間勝負だが。
「チーフ!ターゲットの動き、鈍くなりました」
「よっし!次ィ!code:D実行っ!!一気に行くよっ!!装置の鈍化は制限時間があるから早いとこ拘束しなくちゃ!
神さん、『例のあれ』で渋谷と一緒にターゲットを拘束してっ!!」
「了解」
神は鎖と枷が繋がったようなものを出し、霧人にも渡した。
「怪人専用の拘束具だ。早いとここいつを取っ捕まえるぞ。
これを使えば一時的にターゲットは仮死状態になるし、どうあがいても動けない」
「けったいなもん作ってんだな…」
「怪人捕獲のためなら手段問わないのが解析班なんで」
何さらっと言ってんだよ…。神は。
桐谷・波路・朝倉がサポートしたおかげで怪人の拘束になんとか成功。
「仕上げの作戦実行するよ!code:G行くよ!」
「もう仕上げの段階なんだから、いちいち作戦名を言わなくてもいいんじゃないのか…」
冷めたことを言う神。桐谷は珍しく今回はほとんど何も言わないが、内心朝倉さんは型から入るタイプなのかな〜って…。そう感じていた。
拘束・仮死状態にしたマキナを専用のケースに入れ任務完了。専用ケースは棺みたいな形状をしているが、怪人専用なためにえらい頑丈に作られている。
捕獲した怪人は解析班専用トラックに積み込まれた。
このトラックにも仕掛けがあり、怪人にとってはかなり厳しい仕様になっている。仮にケースから脱出出来ても簡単にはトラックからは出られない仕組み。
このシステムはゼノクの技術を応用した。
「本部に戻るわよ〜。サンプル確保したからさっさと分析したいわね」
「チーフ、なんでそんなに元気なんですか…。戦闘後だよ?」
「搬入作業が終わったら休憩しましょ。本部のある一角に怪人には手厳しい場所があるから、そこで分析作業するからね」
本部にそんな場所…あったっけ?
これは誰もが感じていた。解析班でもチーフしか知らない場所があるらしく、研究の実験場として使われているんだとか。だから知っているのは宇崎と朝倉くらい。
本部の研究所とは違う場所にあるとはどういうことなんだ?
その頃の市街地。御堂は鼎のブレードを起動。
「御堂さんが鼎さんのブレード使ってる!!」
晴斗はテンション高い。
「鼎に渡されたんだよ。『自分は戦えないから使え』って」
「御堂さんも鷹稜使えたんだっけ」
「『だっけ』じゃねーよ!使えるんだよっ!
2人はギャーギャー言いつつもちゃっかり攻撃している。
晴斗と御堂のボケツッコミが復活したような感じがして、内部御堂は楽しいようだ。
御堂は攻撃しつつ、晴斗にこう言った。
「とどめ、俺にやらせろ」
「えっ?いいよ?御堂さんどうしたのさ」
「鼎のブレードで決めたいんだよっ!!あいつに託されたんだ、カッコつけたいじゃんか」
御堂、本当は戦闘中にカッコつけたい時だってたまにある。
たまたま今回は晴斗と彼だけなため、会話は比較的本音が出ている。気心が知れた仲だから出来る会話。
そんなこんなで御堂は一気にコアを破壊。マキナは爆発した。
この様子をモニタリングしていた鼎達。鼎は仮面の下でクスッと笑っていた。
「和希のやつ…カッコつけたかったのか。見ていたよ」
彼女は呟いてる。
「鼎、今笑ったよね?顔は見えないけど」
用心棒で彼女の幼なじみである梓は、鼎の反応を物珍しそうに見た。あれで笑っているんだ…。
顔が仮面で隠れてるのが残念だが、彼女からしたら素顔を見せたくないのも致し方ない。あんな大火傷の跡…人前だとキツいもんな〜。
「梓、私のブレードを渡しておいて正解だっただろ?和希は必ずやる男だからな…あいつは」
悠真はナチュラルに御堂隊長のことを名前で呼んでる。…と梓はようやく気がついた。
畝黒コーポレーション・地下研究所。
「あんたがマキナ2体を出したせいで計画狂っちゃったじゃないの!!」
「イーディス、そう怒るなよ。なんなら紀柳院鼎を陥れる計画を早めればいいのでは?
畝黒家はゼノクをターゲットにしたと連絡が入ったからね」
「えっ!?當麻様早すぎません?なんか生き急いでいるように見える…」
「長官と対峙したいのかもね、當麻様か明莉様は」
イーディスは素朴な疑問を呟いた。
「畝黒家って…そういえば明莉様の母親はいないのかな?見たことないんだけど。
父親の當麻様も若すぎるし、やっぱりあの家…おかしいわよね。老けてない」
グレアは説明する。
「あの家の人達、『人間じゃない』から。かといって怪人でもないから別に変じゃないだろ。
明莉様は不自然だけどね。後から作られたから色々欠陥が出ているんだろうな。…だが、戦闘力は桁違いに強いらしいですよ。明莉様は」
「あのガキ、そういう経緯があったの!?てか、戦えるの!?當麻様が戦うならまだ理解出来るよ!?」
「畝黒家で人間なのは唯一・矩人(かねと)だけですよ。明莉様専属の付き人の」
「あ〜、なんかいたわね。存在感が微妙でひたすらお嬢様をヨイショするあの男か」
畝黒家唯一の人間・矩人も謎が多い。とにかく今回の敵はわかりやすいが、ちょっと厄介で。
第3話へ。