掃いて捨てる

0805 :彩雲国
空白の名前(双玉)


動かない体にイラ立ちながら、考えていたことがあった。

 

生まれ落ちた時の名は、《清苑》

そして清苑は死んだ。

 

公子ではなくなってから目が覚めると《小旋風》と呼ばれていた。

 

それからあの男に、《セイ》と呼ばれるようになった。

 


しかし今はどうなのだろう。
《セイ》も死んだ。
燕青から離れた時に、その名を持つ者は死んだ。
当然のこと《小旋風》もいなくなった。

 


(私は、何者なのだろうか)

 


真っ白な天井を見つめながら彼は考える。

 


《清苑》は決して不幸ではなかった。
息苦しい宮廷ではあったが、彼には実力があった。
それに何より、愛しい弟がいた。
誰よりも大切で、何に換えても守りたい小さな存在がいた。
それだけで、彼は幸せだったはずだ。

 

 

《小旋風》は人と呼ぶにはふさわしくない生き物だった。
生きるということに執着し、他を殺し、生きていた。
呼吸はしていたけど、彼は最初から死んでいるような男だった。

 

 

《セイ》はどうだろう。
彼の人生の中で最も安らぎの時間といえたかもしれない。
初めて、生きていた瞬間。
守られる喜びを知り、初めて気を抜くということを知った。
彼は最後まで幸せだった。
差し伸べてくれる手に縋ってもいいと思えるほどに。

 

 

しかし結局全てを捨ててしまった。
自分はまた、《無》になった。

 

 

ただ、いつだって自分では死ねなかった。

 

 

「殺してください」

 


その言葉は、彼を拾った人に一蹴された。
死ぬことはできない。死ねない。

 

 


『あにうえ!』

『大丈夫か?セイ』

『おにーちゃ?』

 

 


死ぬには、大事なものが増えすぎた。

 

 

 

『生き延びなさい』

 

 


そんな声がなくても。

 

 

 


自分が誰であろうと、生き続けよう。


後に静蘭と名づけられる少年は、そっと瞼を閉じた。

 

 

 

 

END

 


書いてる本人が意味分からない…
飛鳥9月号の衝動です。






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