カチャ
「クソッ!あいついつの間に!
俺の銃の弾を全て抜いて行きやがった!!」
「まったく、大胆な事するぜ!!」
高橋は非常階段の扉を蹴り開け、エレベーターのボタンを押し、エレベーターが来るのを待った。
しばらく待つと、エレベーターのドアが開いた。中に入り、エレベーターガールに言う。
「54階までお願いします」
「分かりました」
エレベーターは上にあがって行く、密室の空間にエレベーターガールと二人きり。
「見事な変装ですね鈴木さん」
「やっぱりバレてたか」
「ここは1階です。それなのに僕はエレベーターが来るのを待った。エレベーターガールは乗客がいなければ1階で待機しているのが普通。このエレベーターはハッピーフェイスの人間しか使用しない。今は非常事態、素人集団は非常事態にエレベーターは使いませんから」
「さすがね」
「いいえ。どうしてここにいるんですか?」
「やっぱり一人じゃ危険だからとSLさんがこれを渡してって」
鈴木は高橋にスイッチらしき物を渡した。
「なんのスイッチですか?」
「知らない、SLさんが危なくなったら押してって」
高橋はすぐにスイッチを押した。すると、スイッチの裏のスピーカーから、
『ガンバレ!ガンバレ!ココロノササエ。ニッポンノオイシイタベモノオイシイ。イジョウ、牧田祐太郎デシタ』
………。
途中、エレベーターが33階で止まる。ドアが開くと、赤と青のヒーローっぽい人が立っていた。
「俺達は、悪の組織をぶっ倒す、勝ち組戦隊π勝ち組レンジャーだよ!」
「そうですか」
「勝ち組パワーを炎に変える!勝ち組レッド」
「水!勝ち組ブルー!」
「そうですか」
「毎週日曜日朝7時から放送しているよ!見ないと切り刻んで豚肉と一緒に料理屋さんで提供するよ!更には…」
勝ち組レッドが喋ってる最中に鈴木がエレベーターの【閉】を押す。
ドアが閉まり、また動き出す。
次は45階でエレベーターが止まり、ドアが開く。
そこにはまた、先程の二人が立っていた。
「やっと追い付いたよ!さすがにヒーローも階段をダッシュするのはキツイとこあるよ!」
「そうですか」
「俺達は勝ち組な感じで悪をこてんぱんに倒すよ!」
「色は二色だけですか?」
「いいや!違うよ!あと55色がいるよ!でも今日はみんな勝ち組な理由があって来れないよ!他にも…」
勝ち組レッドが喋ってる最中に鈴木がエレベーターの【閉】を押す。
ドアが閉まり、またまた動き出す。
54階に着きドアが開く。
高橋は、エレベーターを降りて、ちょっと階段を上がった所にドアを見つけた。きっとここを開ければ屋上だ。
高橋がドアを開けようとしたその時、
「待て!!」
後ろから声をかけられた。
振り返ると、そこにはヨボヨボのおじいちゃんが立っていた。
「あなたは?」
「ワシは四天王の一人、ポールだ」
「あとの3人は?」
「さっき寿命で死んだ。そこから先は行かせんぞ!!お前を行かせたら、死んだ仲間に申し訳ねぇ」
「そうですか」
高橋が帰ろうとすると、
「うっ!!う゛…くっ…、寿命が…。ワシの負けじゃ、行くんだ若僧…」
「分かりました」
高橋は、ドアノブに手をやる。
SLさんの言うように、このドアを開ければもう後戻りは出来ないでしょう。だったら前に進むだけです。
高橋はドアを開け、屋上に出る。そして、ドアが閉まる。
ガチャン
この音、オートロックか。犯人は自分も死ぬつもりなのだろう。
屋上には、ロープでぐるぐる巻きにされているホーの隣に、セミロングの女性が立っていた。
「やっぱりお姉さんでしたか」
「そうよ。よく来たね高橋」
「ホーさん、紹介します。この人は僕の姉で、名前はリン岡田です」
ホーは高橋の言葉に驚く。
「君達姉弟だったの!?それと今紹介されても困る!!あと名前おかしいだろ!!」
「お姉さん、何故こんなことを?」
「お前を殺すため」
「理由を聞かせてください」
「いいわ。幼い頃父が死んで、私達は母に育てられた。
高橋は生まれた頃から何でも普通に出来ていた。そんな高橋に母は優しかった。
それなのに、私には愛情を一切注がなかった。リン岡田なんか死ねばいい、そう思ってたはずよ。
小さい頃、私が頑張ってキュウリを鼻に入れようとしていた時も、母は頑張れの一言もなかった。それどころか、どや顔で3匹のウサギを鼻に入れていた。
そんな母を、私は許せなかった。
そして大きくなった私は、夢を追っかけ家を出て行こうとした時、母は何も言わなかった。
一人暮らしを始めても一切連絡などなかった。
いつしか私は母を殺す事を考えていた。だが、帰ってきたら母はすでに死んでいた。
だから私は、母の息子である高橋を殺そうと思った」
「そうですか。ではその前に、これを読んでください」
高橋はパンツの中から一通の手紙を取り出すと、リン岡田に渡した。
リン岡田はその手紙に目を通した。
『リン岡田へ
一人の生活は慣れた?元気にしてる?ちゃんとご飯、もしくはパン食べてる?
今さらそんなこと聞いてもしょうがないわよね。もう大人だものね。思えば母さん、一度もあなたにお母さんらしい事してなかったわよね。会って謝りたい。
たまには顔を見せにおいで。そしたら』
「手紙はそこで終わりです。途中で、今さら送れないと諦めたのでしょう。その手紙は病室のゴミ箱に入っていました」
「病室?」
「ええ。母は昔から心臓が弱かったんです。あなたが家を出ていってすぐに入院しました。
母が親らしくなかったのは、あなたが一人で生きていけるようになってほしかったんだと思います。
母は、当時から自分が死ぬ事を分かっていたのでしょう。だから夢を追っかけて家を出ていったあなたに何も言わなかったんです。いや、何も言えなかったんです」
「じゃあ私が勝手に…」
「その手紙の他にも、似たような手紙が何枚も捨てられていました」
リン岡田は膝から崩れ落ち、泣いた。
「ダイジョブ?」
「母はあなたの小さい頃の作文や、なんやかんやを抱き抱え、亡くなっていました」
リン岡田が泣き崩れていると、やたら低空飛行している飛行機が、ビルの上を通過した。
その時、上から何かリュックのような物が落ちてきた。
そこには『守る』『落ちる』と書かれていた。
「そんな事より爆弾はどうする!!爆弾どうすんのよ!!」
ホーは、そう叫ぶと自分でロープをほどき、爆弾を覗いた。
爆弾には、残り20分と書いてある。
「中途半端!!もっとなんか残り5分とかならストーリー的にも面白いのに!!」
「そんなに早く死にたいのですか?」
「違うよ!残り5分という緊迫した状況で脱出方法を考えたいの!20分あったら全然緊迫してないじゃん!むしろ生かさず殺さずだわ!つらいわ!」