*版権
眼鏡外してどこまで見える?意表をつかれながらも基準になりそうなも のを探して、天井の模様とか本棚の書名とか、ベッドサイドに垂れた広 告の大見出しを目を細めながらようやく読んだ。じゃあ僕は?
「あと、“都心生活を楽しむ”…」
目を細めて漸く認識できる文字を読んだ。ふ、と空気が揺れたので
「じゃあ僕は?」
腕の長さ分の距離から降る声色は柔らかく、陰を作りながらもほんの少 しだけ儚げに近付いて。
「見えてるよ。」
やや垂れた眉やふわふわの髪、澄んだ黒い眼が少しだけ切なく思えた。 けれどすぐに弧を描き、潜めた笑い声と共に鼻先まで降りてきた彼の顏 を優しく、包み込むように。
「今度ブラッシングしようね」
「……やさしくしてね」
はにかむ笑顔が近すぎて、今度はよく見えなかったけれど。
(PM:ケンヒグ)