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敵うものはない 叶うはずもない







月が輝いている夜。
晩酌中に訪ねてきた奴を招き入れて、縁側で月を肴に一杯。
徳利を何本か空け、お互いに少し酒が回った頃。肌寒い風に気付いて、奴に羽織を掛けてやる。
気恥ずかしいし普段ならしないだろうが、ここは酔いの席。それに風邪を引かれても後味が悪い。
言い訳を内心で色々しながら、先程の続きを話始めた。
と、何を思ったのか奴は頭を肩口に乗せてきた。思わず黙ってしまって沈黙が流れる。

ふと、奴の黒髪に触れる。
さらさら、と簡単に流れて指から離れてしまった。
何故だが悔しくなって、もう一度触れる。
すると怪訝そうに奴は顔を上げた。

「どうした」

「何でもねぇ」

顔はそのままに、頭を離して自らの髪に目を落とす。

「絡まっていたか」

「いや」

傍にある酒を飲む。
それを見てか、奴も一口。
徳利の中にはそんなに入ってない。

「もう月があんなに高い」

小さく呟いた声に習って、月を見た。
確かにかなり高い。

「そうだな」

同意しながら奴に目を戻す。
俯いて目を伏せたかと思ったら、ゆっくりこちらを見た。
何か言いたげに目を泳がせたが、意を決したように口を開く。

「そろそろ失礼する。明日も早い」

「そうか」

羽織を返して来ようとするからそのまま押し付けた。
いつか返せと言って着させて、道の途中まで着いていった。

「気をつけろよ」

「人を何だと思っている」

可愛くないと思いつつも、じゃあなと言った。
奴は何か別の事を言いたげに、また明日と言って歩き出した。
自分の濃い色の羽織のせいか、奴の白い肌が余計白く見えた。
肩幅の合ってない羽織が不恰好だったが、いつもと変わらない夜だった。
ただ変わってたとすると、どうせならこの腕に抱けば良かったと思って、苦笑した。








(肩の熱が取れない)






話題:創作小説

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幻だけを信じていた



本当に静かに、それはポタリポタリと落ちた。
それが赤い滴であればまだ何とか自我が保てたかも知れない。
音がしないのに人を簡単に傷付けるそれは、人のストレスの集合体。






















「どうして泣くの?」

「君が泣かないから」














嗚呼優しい人。
どうして君が傷付かなきゃいけないの。
もしもこれが嘘ならば、僕は何を信じれば?
(君の泪に)
(幾らの値札がついてるのかは知らないけど)

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歪む事の無い


愛の形とはどんな形か、と生徒に質問された。
それはわからないな、と答えて

「すればわかるんじゃないか?」

と冗談めかして言った。
若いと言うのは羨ましい。
何でも疑問に思えるし、何でも知ろうとできる。
しみじみと思いながら資料室の扉を開く。

「あ、先生」

標準より高い身長。
余裕のある笑顔。
溜息が出る容姿(良い意味で)。

「何してる」

「先生来るかなって」

ソファに堂々と腰かけて本を読んでいた。
溜息が出た(悪い意味で)。

「さっさと教室に行け、授業が始まる」

「質問があるんだよ」

予想外の返答に驚きはしたが、まぁいい。

「…何だ」

机の備え付けの椅子に座る。

「愛の形ってどんな形?」

…真面目に聞こうとした自分が情けない。

「さっさと教室に行け」

「すればわかる、って答えてくんないんだ」

「答えてどうする。下らん」

「下らないって思ってたのに、したらわかるって答えたんだ」

「お前に何を言っても無駄だからだ」

と、奴の笑っていた目が、すっと細くなる。

「愛の形って不変なんだよ」

「何?」

「人それぞれに形はあるけど、形は不変。憎しみも同じ」

「何を言い出すかと思えば…」

「だって俺が先生を好きなのに変わりはないからね」

「ご苦労なことだな」

何を言い出すんだ、と思いながらまた溜息が出た。

「…先生」

「何だ」

「好きだよ」

「当たり前だ」

「…先生は?」

「言わなくてもわかるだろう」

「…意地悪ーい」


不変なんてそんなもの。
数えるくらいしかない。
(愛の形なんて)
(あっても教えない)
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両手一杯に雨



心を離す事は無いけれど、体と言うものは離れるもので。
行かないでと言った彼は、気付いていたのだろう。





「どこにも行かないで」

「行かないよ」

「僕以外に触れないで」

「…うん」

「僕以外と話さないで」

「それは…」

「…我が儘ってわかってるけど、嫌だ」













彼の涙を集めたら、多分両手一杯じゃ足りないけど。
今からでも遅くないなら、全て受け止めて。
(誰にも触らせたくないなんて)
(こっちの台詞だ)
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充電切れた


携帯の画面に「充電してください」と表示され、しばらくするとぷつんと真っ暗になる。
充電器に差し込むと、赤い電気が付く。

「………ちぇ」

一向に鳴らない携帯に舌打ちして(携帯が悪いのではないのだけど)、ベッドに転がった。








「会いに来いよばーか」















俺が君の充電器であればいいのに。
(俺が充電される立場なんて)
(不公平だ)
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