敵サイドでは鐡の行動により、元老院では監察官がいなくなる事態に発展。鐡は迷い人が異空間に迷わないように、ゲート対策も秘密裏にしていた。
一方、ゼルフェノアでは長官が本部を訪れる。今度は個人的な理由で来たらしいが、秘書兼世話役の南も一緒。
本部・司令室。宇崎は蔦沼にホットコーヒーを淹れながら話をしてる。
「こんどは何の用で来たんですか、蔦沼長官」
「紀柳院の日本刀型ブレード・鷹稜(たかかど)の調整しにね」
調整?調整は俺もしているが…。
「紀柳院の鷹稜は僕が作ったの、宇崎は覚えているでしょ?彼女には通常装備は負担になるからね。良くても対怪人用銃が限界だ。
刃物となると、彼女の身体の負荷をさらに軽減させなければならないわけで」
「それで紀柳院専用武器『鷹稜』が作られたんですよね」
「炎使いの飛焔に対抗出来る相性抜群の武器は『鷹稜』だが、発動してこそ威力は発揮される。今までの発動では幹部相手じゃ効果が薄いんで、僕が調整に来たのさ」
はぁ〜。それで長官がわざわざ本部に来たのかい。
めっちゃ個人的だな…。鼎に会いに来たようなもんじゃんか。
「…てなわけで、紀柳院呼んできてくれる?」
数分後。司令室に鼎がブレードを持ってきた。
「鷹稜の調整って、室長の調整とは大幅に変えるのか?」
鼎はブレードを蔦沼に渡す。蔦沼は鞘を抜き、発動が制御状態にあると見抜いた。
「宇崎、このブレード…発動出来ないように制御かけただろ」
「長官は鋭いなぁ」
蔦沼はブレードを元に戻し、鼎に優しく言う。安心させるかのように。
「紀柳院の身体の負荷がかかりすぎないように、なおかつ発動出来るよう、調整するからブレード貸してね。この調整は幹部撃破には重要なんだ。飛焔と相性抜群なのは『鷹稜』しかない」
「他の装備はどうなんだ?」
「効果てきめんなのが鷹稜だっただけであってね…。ゼノクのシミュレーション武器データは、隊員の装備を元にして作成したんだよ。
3幹部には武器の相性があるらしい。現にこの間の釵游戦で暁の『恒暁(こうぎょう)』が相性抜群だと証明されている」
鼎はしばし、間をおいた。
「…ではお願いします」
「鷹稜は僕が作ったものだ。子供のようなもんだよ。絶妙に調整してあげるから数日間、待っててくれないかい?」
「はい」
鼎はブレードを蔦沼に預けた。
休憩所。彩音は鼎が妙に明るいと感じていた。
「鼎、どうしたの?」
「長官が来てて…ブレードを預けたんだ。幹部撃破には必須らしくて調整に」
「なんか鼎、あのトラウマ克服やめてからスッキリしたように見えるよ」
「バーチャルでも怖いものは怖いからな。今は休んだ方がいいかもしれない。悪夢を見るくらいなら一時的に離れた方がいい」
「そうだね…」
彩音はふと気になっていたことを聞いてみた。
「ブレード預けている間、どうするの?出動出来…るか。状況次第だけど」
「バーチャル怪人と戦うしかないだろ。幹部は『強』設定じゃないと倒せないと聞いた。任務は援護につく。銃なら扱える」
そうだった。鼎はブレードにかき消されがちだが、銃も扱えるんだった…。
御堂の後輩らしく、銃の腕はいいらしいが鼎の戦闘スタイルではあまり銃を使わない。
鼎は席を立つ。彩音は気になった。
「ど、どこ行くの!?」
「トレーニングルームだよ。これからバーチャル怪人と稽古をつける」
鼎、本気だ…。
本部・研究室。
蔦沼は鼎のブレード調整に入っていた。なぜか宇崎も一緒。南は研究室の外で待機中。
「しかし、なんで長官直々に調整なんて」
蔦沼は鼎のブレードの刀身を見ている。
「たまにはいいじゃないか。自作の武器を調整するのも。この調整は繊細だから3日くらいかかるかもね」
「3日!?」
宇崎は驚いている。
「宇崎は絶妙な調整なんてしたことないでしょ?これは僕の得意分野だからまぁ見てな。
…あ、そうだ。調整の関係で僕と南は今日から3日ほど、本部に泊まるよ」
南は研究室から漏れた声を聞いて「あー、やっぱりな…」という反応。
本部・トレーニングルーム。
鼎は手始めにバーチャル怪人「弱」1体と戦い、あっさり撃破。これには見ていた時任も驚いていた。
「きりゅさん、すごい…」
「時任、これは『弱』だ。私が倒したいのは幹部なんだよ。上級メギドは『強』でシミュレーションしないと意味がない。…が、次は『中』で行こう。いきなり難易度飛ばすと痛い目みるからな」
長官製作のシミュレーション怪人装置は強さ設定がおかしい。「中」が「標準」レベルじゃないのだ。異様に強いのが「中」レベル。
「強」はさらに強いと推測される。
偽物でも油断出来ないのが、長官製作のシミュレーション怪人。厳密には蔦沼と西澤の共同製作だが。
鼎はバーチャル怪人「中」1体と肉弾戦で戦っていた。
見た目は戦闘員だが…意外と強い…!
鼎はバーチャル怪人に苦戦。「中」レベルでこの強さとはなかなかにキツい…。
鼎の得意な蹴り技を駆使しても、攻撃がうまくいかない…。
持久戦が苦手な鼎からしたら、キツいものだった。
「きりゅさん!私も参戦していい?」
「足引っ張るなよ」
「バーチャル怪人『中』レベルは中級メギド並みか、それ以上だって聞いたんす。だから『強』を倒せたらマジでヤバいよ!!」
時任はパンチを使い、鼎はキックを使う。どうにか2人でバーチャル怪人を倒した。
鼎はかなり息切れしていた。時任はスポーツドリンクを渡す。
「きりゅさん、火傷のダメージで持久戦が苦手だもんね…。水分補給は大事だよ」
時任はにっこりとする。鼎はスポーツドリンクを受け取った。
相当来たのか、仮面をずらして飲み物を飲んでいる。
「ねぇきりゅさん、一緒に頑張ろ。あいつら(幹部)許せないもの!」
「…そうだな」
晴斗と御堂はアスレチックみたいな物体がある、第6トレーニングルームにいた。
「晴斗、お前どんだけ身軽なんだよ!忍者みてーだな…」
「忍者は言い過ぎでしょ!御堂さんもだんだん器用になってきているじゃん…」
確かにそうだった。
このアスレチックなようなSSUKEのような物体があるトレーニングルームとグラウンド横のスペースは、ほとんど晴斗と御堂が使っている。
晴斗は屋外の練習場も積極的に使っていた。
鍛練にストイックな御堂は晴斗に対抗心を燃やすうちに、だんだんこのアスレチック的なものに慣れ始めている。
最近では互いにタイムトライアルもするほど。
端から見ると遊んでいるようにしか見えないが、そうではない。
本部・射撃場では桐谷と霧人が銃の腕を上げていた。
普段は大型銃火器専門の桐谷だが、さすがに射撃場では拳銃サイズの対怪人用銃か対怪人用のライフル銃を使う。
霧人は変わった武器を好むが、たまに桐谷と射撃場にいる模様。
「桐谷さん、また腕上げたでしょ?」
「そんなことないですよ、渋谷さんだって」
射撃場とは別に弓道場みたいな場所も存在し、そこでは弓矢やボウガンの腕を上げている隊員が。
解析班チーフの朝倉は時々ここで弓矢の訓練をしている。朝倉は戦闘慣れしてないが、銃と弓矢だけは使える。
鼎は時間を置いた後、再びバーチャル怪人と戦っていた。時任はアシストしながら鼎に攻撃のチャンスを与える。
2人はいつの間にか連携が取れていた。鼎の蹴り技が炸裂し、バーチャル怪人撃破。
隊員達の幹部撃破に向けた動きは活発になる。
宇崎と長官も元老院の動向を注視していた。
第18話(下)へ続く。