翌日の午前中。鼎は本部に連絡していた。
「特殊請負人?聞いたことないぞ、それ…。お前達は今日帰るんだろ?
鼎、ゼノク医療チームと特殊請負人の憐鶴(れんかく)には深入りするな。いいから帰ってきなさい。わかったね?」
宇崎は子供に言い聞かせるようにして、鼎との通話を切った。
「特殊請負人」、本部や支部にはない存在だな…。この名称は表向きのものかもしれない。
特殊請負人の実態がわからないが、鼎のやつは深入りしそうでヒヤヒヤする…。
午後。そろそろ帰ろうかという時間帯、鼎は私服姿の憐鶴を見かけたような気がした。出口へ向かっている。
明るい時間帯は地下にいるはずでは…?それに世話役らしき人もいない。
1人ですたすたと歩いていくようだ。どういうことだ?
あの包帯姿で一体どこへ?
鼎は窓からその様子を見ている。駐車場には組織の車両。憐鶴はその車に乗り込んだ。
「きりゅさん、どうしたの?さっきからぼーっとして」
いちかが声を掛けてきた。
「憐鶴のやつ…何かしら裏がありそうだ。桐谷、いるか?」
「さっきからずっといましたよ。どうしましたか?」
「あの車を追うぞ」
鼎はしれっと対象の車を示した。組織の車両だが黒いハイエース。通常の組織車両とは色が違う。
「きりゅさん、なんか危なくない?深入りしちゃダメだよ!」
いちかも制止しようと必死。
「憐鶴は『特殊請負人』の任務に行くのかもしれないな」
「やっぱり追うんですか!?」
桐谷も制止しようとするも、結局3人は憐鶴が乗った車を追うことに。時間帯は午後、夕方近くだった。
憐鶴が乗った車両では運転手の津山・憐鶴の世話役の姫島・憐鶴の協力者の苗代と赤羽が。
憐鶴は顔から首まで包帯姿だが、姫島は憐鶴用に仮面を用意していた。それは鼎と同じようなタイプの白いベネチアンマスク。目元は保護用レンズで覆われているタイプだ。
「苗代・赤羽は例の場所へ着いたら先に行って欲しいんです。
ターゲットは人間態ですからね。私は後で入ります。対怪人装備は積みましたよね?ナイフや鉈とか」
「憐鶴〜、『特殊請負人』ってうわべだけなんだな。これじゃあ執行人だわな、俺達」
赤羽がぼやいた。
「執行するのは私だけでいい」
「怪人の残党狩りで最も過酷な任務をあんたがやるとはね〜。顔が見えないからこそ、出来るんだろうけどよ」
苗代もぼやいている。
「きりゅさん、あの車…東京に向かってるよ…」
「そのまま追ってくれ」
本部。宇崎は嫌な予感がしたらしい。
「室長、鼎達まだ帰ってこないのか?」
御堂が聞いてきた。
「全然連絡来ないし、深入りするなとは鼎に釘刺したけど…」
「深入り?」
「ゼノク医療チームと特殊請負人のことだよ。特殊請負人は初耳だが、ゼノクにしか存在ない。
実態も謎に包まれている」
「あいつは深入りしやすいからな…」
ゼノク・司令室。西澤はいつもと何かが違うことに気づいた。蔦沼に聞いてみる。
「長官、泉…館内にいませんよね?どこかへ行きました?」
「任務だよ」
「…に、任務?長官、『特殊請負人』って一体なんなんですか?なぜ泉だけ請け負っているんですか?」
「泉だけではないよ。彼女には協力者もいる。『請負人』は過酷だからね。
依頼人から怪人を倒して欲しいと依頼が来るの。表には出てこない極悪非道な怪人だよ。ターゲットの怪人は人間態がほとんど。壮絶な任務だから協力者が必要なんだよ。あと、顔を知られてはならないから泉を抜擢したわけ」
協力者?ターゲットが人間態?
「それって執行人じゃないですか…。怪人専門の」
「そういう人もいるな…。怪人専門の執行人だって。依頼人はその怪人により、ひどい目に遭った人間ばかり。
依頼するのもわかる…。泉はサイトの管理人でもあるんだよ。組織公認だが、ある個人サイトを運営している」
闇の執行人か…。
憐鶴達を乗せた車はある廃ビルへ到着。この時間帯になると暗くなっていた。
先に苗代と赤羽が廃ビルの中へ。その後、仮面を着けた憐鶴がゆっくりとビルの中へ。
少しして、鼎達も廃ビルに到着。鼎といちかは急いで降りる。
「きりゅさん行くの!?やめた方がいいよ!」
鼎は制止を振り切り、廃ビルの中へ。ビルの上から何やら音が聞こえる。
彼女は慎重に階段を登っていく。
廃ビルでは赤羽と苗代がターゲットの怪人人間態を捕らえ、手慣れた様子で拘束。人間態は若い女性。
そこに憐鶴が姿を現した。
憐鶴はボイスチェンジャーで声を変えて接近。
「その縄は怪人には有効なものですよ。怪人態になるか、人間態のまま詫びるか…。あなたは倒しませんが…。そうですね…その綺麗な顔、ズタズタにでもしましょうか」
憐鶴はナイフを取り出すと、そのターゲットな人間態にナイフを突きつける。
「憐鶴やめろ!!」
鼎が飛び込んできた。苗代と赤羽は暴れる鼎を止めにかかる。男性2人の力には及ばず、鼎は行く末を見るしかなかった。
憐鶴はなんてことをしてるんだ…!
辺りにはターゲットの女性の悲鳴とナイフが刺さる音が聞こえる。
協力者の2人はこう説明。
「憐鶴さんは組織公認の『怪人専門の執行人』なんだ。依頼に応じて怪人を駆逐している。駆逐のやり方は依頼にもよるが」
「あれは怪人だったのか…?それにしても酷いことをする…」
「いたんですか。紀柳院さん」
鼎は声の方向を見た。そこには怪人の返り血を浴びた憐鶴の姿が。
憐鶴は仮面を外し、見慣れた包帯姿に。
憐鶴は冷たい言い方をした。声は元に戻してある。
「深入りしなければ良かったのに」
憐鶴はすたすたと行ってしまった。苗代と赤羽も後を追う。
鼎はひとり、残された。
ターゲットの怪人人間態の顔はナイフでズタズタにされている。
これでは闇の執行人ではないか…!
憐鶴は鼎以上に警戒心が強く、姫島の前以外では素顔になることがない。
憐鶴は移動中の車内で姫島に包帯を取り替えて貰っていた。髪の毛で隠れてほとんど見えないが、素顔が少しだけ見える。
「私、紀柳院さんに嫌われたでしょうね…。汚れ仕事してるから致し方ないんですけど…。これは私にしか出来ないから…」
鼎は深入りしすぎたことにより、後悔した。
憐鶴の裏の顔があんなことになってたなんて…。
憐鶴もしばらくの間、外出して任務が出来ない状態になってしまう。
請負人、もとい執行人は汚れ仕事ゆえ、ハイリスクだからメンタルもかなり削れるらしい。
姫島は憐鶴の部屋から出た。
しばらく彼女は無理かもしれないわね…。やはり彼女は人前に出ると、エネルギーをかなり消費するようだ…。
「蔦沼長官、『特殊請負人』について答えて頂きたい。なぜ憐鶴にあんなことをさせる!?あれでは『闇の怪人専門執行人』にしか見えない!」
鼎はモニター越しの蔦沼に問いただした。
「あれは彼女から申し出があった。『この姿でも支障がなく何かやれることはないのですか』と。なんでもいいから、やらせてくれと」
「『抜擢された』は嘘だったのか…」
「憐鶴は助かって以降、人が変わってしまった。任務中、言い方が冷たかっただろう。あれが彼女の本質だ」
「だからといってなんであんな過酷なことを…」
「紀柳院、深入りしたらいけないこともあるんだよ」
憐鶴の協力者、苗代と赤羽は普段はゼノク周辺に住んでいる。一般市民を装った特殊な隊員。
「おい、苗代」
「なんだ?」
「あの紀柳院って女…司令補佐だって最近知ったぞ」
「マジ?憐鶴さんと同等じゃないですか。肩書きだけなら。
…あ、でも憐鶴さんは司令補佐と呼ばれるの、毛嫌いしているからな〜」
「憐鶴さんは警戒心めちゃくちゃ強いっすからね〜。素顔、見たことないな。あの包帯姿はさすがに今は見慣れたが、最初はショッキングだったぞ」
「インパクトが強烈だからな…。なんなんだあのミイラ女って、思ったよ」
「だが蓋を開けてみたら実力者って…。わからねぇよな、この組織。
そんでもって『闇の執行人』になってしまうとか…憐鶴さんは闇が深すぎるよ…」
「それ、言っちゃダメなやつだから」
ゼノク・地下。憐鶴は機器をずっといじってる。
次の依頼人は…怪人の撃破か。前回よりもハードな依頼が来ましたね。
相手の人間態は医者というのもなかなか…。被害者は多いな…。
…第2シーズン(仮)へ続くか?