「だから、ヤメロって言ってるアルぅぅぅぅ!!」
ごす、と。
聞きたくもない身体にダメージを与える音とともにオレの意識は飛んだ。普段なら、有り得ない事だが油断というか色々あっての結果。
沖田総悟。
誕生日は7月8日。
職業、真選組、1番隊隊長。
彼女アリ。
そんなオレの目下の悩みは…。
付き合って、1年たつのに彼女がヤらせてくれないということ。
健全な男子なら彼女とヤりたいと思うなど当り前だろ?寧ろ、力技からなし崩しに向かう事すらするだろう。つーか、ヤる。
じゃあ、何で1年もヤらせてもらえてないかっつーと。
オレの彼女は夜兎っつー、怪力の種族。力技に持ちかけると全力で殴る蹴るの暴行を受け、力負けするのだ。
そんな攻防を続けるくらいなら、昔のオレならあっさり別れるんだけど。
別れられない。別れたくない。
好きで、好きでたまらない。
嫌いになれない。
それくらい彼女にイかれてる。
何が辛いかっつーと。
接吻と手を繋ぐ事はできる分、その先ができないのが辛い。少しでも性的な行動に移るとすぐにバレるのだ。
『イヤじゃないヨ。見たこともないコトなんて、できないアル』
と、いうのが彼女の言い分。
殴られた後、うるるとデカイ澄んだ瞳で言われたら、許さないわけがない。こっちの言い分もあるけれど、許してしまう。
その繰り返しだ。
だけど、そんなの本能でヤるもんだろ。ヤり方なんて、知らなくても躯が識ってるもんなんじゃねえの?
「あー…、ヤりてェ…なァ」
好きな彼女のやらしい顔。
やらしい声。やらしい吐息。すべすべな肌。柔らかいおっぱい、太もも、尻……その他諸々。
想像だけで満たされるなら、問題ない。
満たされないから、ヤりたい。
触りたい。感触を識りたい。
じゃあ、ヤったら満たされるかっつーと。そういうわけでもない。たぶん、何度識っても彼女の事が識りたくなって、識らないコトだらけで、ずっと繰り返す。
何度でも。
満たされるコトなどないと識っていても、ヤりたいと思うのは男の性か。独占欲か。それとも、身勝手か。正直、わからない。答えられない。
答えが必要というなら、本能としか言いようがない。
堂々巡りなわけだ。
一回でも、ヤれればなあ…。
あんなことや、こんなこと、そんなことでもヤり放題な気がする。いや、ヤり放題に持ち込める技術があると自負があらァ。
さて、如何なるものか。
ぼーっ、と。
落語を見ながら、考えを巡らせたところ。ひとつの考えが思いつくに至った。
「見たことない、ねェ…」
ならば、見せればいいわけだ。
そんなわけでオレは嬉々としながら、準備を始めることにした。
翌日。
オレは彼女を自室に呼び、押入に身を隠した。
彼女はオレが自室にいないと好きな番組の録画を見る、という習慣がある。
それをAVに変えてあるのだ。
つまり、オレが考えついた事と言うのは彼女にヤっているモノを見せるという実に簡単な事。
今まで何で考えつかなかったのか逆に不思議だ。因みにAVは全部、素人ものっぽいヤツ。いきなり、オレ好みのヤツはハードル高いって知ってるからな、其処までバカじゃない。
「そーごー!」
スパーン、と。
勢いよく襖を開けて、彼女がやってくる。
「いないアルか?」
オレがいないのを確認すると鮮やかにテレビをつけて、ビデオを再生させる。
ごろん、と。
横になって、映像を見だした。
実に鮮やかに事を成す。
映像が映りだすと、彼女はびく、と。身体を強張らせた。
それはそうだろう。
自分が期待していた物とは違う映像が映りだせば。
彼女は驚いて、起き上がってテレビを消そうとする。
「消すんじゃねェよ」
今、消されるわけにはいかない。
がたり、と。
大きな音をたてて、オレは押入から出た。
「そーご、いたアルか!?」
「おうよ」
押入から出たオレは彼女を後ろから、抱えた。
そして、ちゅう、とうなじに唇を落とした。
映像と同じように。
「な、なにアルか、これ」
「んー、わかんねェ?AV」
「な、なんで!?」
「見たことないなら、見せりゃいいなァって」
もぞもぞ、と。
服のを捲りあげようとすると、抵抗された。でも、その抵抗の力は何時もより弱い。
「そ、それで、アル?」
「ん。AVと同じようにしてやっから、よく見てなァ。見たことなら、できんだろィ?」
「……う、ん……」
彼女は消え入るような声で返事をしながら、小さく頷いた。
これは驚いた。もっと、抵抗されるかと思ったからだ。
でも、彼女が何時もよりいい匂いがするな、と気付いたオレは。
「……もしかして、覚悟してた?」
そっと、耳元で囁くと。
また、小さく頷く。
「い、いつまでも、ダメって言ってられないなって、思ってて。そしたら、そーごが部屋に遊びにこいって、言った、から…」
『今日はこたえようって思ったアル』
もう、最後はほとんど聞こえないくらい小さな声で彼女は答えた。
「ん……。じゃー、自己紹介しなせェ」
「は?自己紹介??」
「テレビ、してたろィ?同じことすっから」
映像はそれなりに進んでいるがまだ、間に合う。
悪趣味とか言われそうだが。
それはそれ。せっかく、見ながらヤるのだから少しは色々、楽しみたい。
「うー?……名前、はっ……神楽。……ひゃあ、…えー、と…誕生、日は、11月、3日」
オレは映像と同じようにべろん、と耳に舌を這わせる。
ああ。舞い上がりそうだ。
今まで、此処までの行為に及べた事などないのだから。
舌を這わせるその肌はつるりと滑らかで、柔らかい。味もほんのりと甘味があるような気がする。
「ん。彼氏はいやすかィ?」
もぞもぞ、と。
途中まで捲り上げていた服を捲り上げ、触りたくて、触りたくて仕方のなかったおっぱいに恐る恐る触れた。
また、殴られるんじゃねえかっていう恐れ。
自分が求めてやまなかった行為。どちらの感情も沸き立つ。
触れた瞬間。
どちらの感情も消え、ただただ、嬉しいという思いが高揚した。
興奮して、強く握るように揉みそうになったが。
柔らかさを手で確かめながら、ふにふにと揉む。
くん、と。
上に持ち上げるように揉んだり。寄せるように揉む。
「ん、んんッ、い、いるヨ」
「いいのかィ?こんな事して」
此処までは同じ。
彼氏がいるのに他の男とやらしい事しちまうのか、やらしい娘だね、みたいな事がAVの内容だ。
ただ、違ったのは次の神楽の解答。
「いいんだロ?かれし、がシてるんだもん」
「……ははっ、ちがいねェや」
嬉しかった。
きちんと、オレを彼氏と認めていてくれるだけで、如何にかなりそうだった。
普段、素っ気ない神楽の態度。オレばかり、好きなものばかりと思っていたし。コイツはオレの事、彼氏とは思ってねえんじゃって、思った事もあった。
けれど、そんな事なかった。
手を繋ぐ事も接吻も。
今日、覚悟してきてくれた事も。きちんと全部オレに許して、好きだと伝えてくれていたのだ。
オレはそんな小さな、些細な事がわからなくて、ひとり焦ってたわけで。わかったら、情けないと同時に嬉しくて泣きそうになった。けれど、今は泣く事よりも。
余す事なく、神楽を抱きたい。
続く!
-エムブロ-